「鈴木政吉ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ コンサート」報告

 717日(日)、名古屋のウィルあいちのウィルホールで、鈴木政吉ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロコンサート(主催:スズキ・メソード東海地区三科連絡協議会)が開催されました。前半は、鈴木鎮一先生の父で、このところ、テレビドラマ化されるなど話題の多い鈴木政吉さん製作の楽器が一堂に集結し、演奏が行なわれるという、おそらく初めてのコンサートでした。とても意義深く、まさに、才能教育研究会70周年の節目の年に相応しいイベントになりました。

 冒頭、進行役の國分康代先生から、名古屋のモノづくりについて、お話がありました。
「昔から、愛知県は、モノづくりの中心と言われていました。トヨタ自動車の創始者、豊田佐吉さん、ミキモト真珠の創業者、御木本幸吉さん、そして日本のヴァイオリン作りのパイオニア、鈴木政吉さん。『発明の三吉』とも呼ばれたこの方々が、モノづくり名古屋を盛り立てられたのです」

 鈴木政吉さんへの興味が、いやがうえにも高まりました。そこに登場されたのが、政吉さんの孫である、才能教育研究会の鈴木裕子会長です。政吉さんの1927年製ヴァイオリンで、鈴木鎮一作曲「名古屋の子守唄」を演奏されました。とても渋みのある、少しこもりがちな音色でしたが、曲想と相まって、心に染みわたる旋律が流れました。

 続いて、ヴァイオリン科OBの桐山建志さんが登場。政吉さんの1938年製のヴィオラ独奏で、ヒンデミット作曲「無伴奏ヴィオラソナタ作品11-5」より第4楽章「パッサカリアの形式で」を演奏されました。この曲は、ヴィオリストでもあったヒンデミットが、バッハを意識した作品。桐山さんはこの曲のCDも出されていて、政吉さんのヴィオラのポテンシャルを力強く押し出されていました。

 そしてチェロ科OBの長谷部一郎さんが登場されました。手にされるのは、チェリストの倉田澄子さんが所有される政吉さん製作のチェロ。長谷部さんよれば1925年製と読み取れる楽器で、『No.3』と記された楽器です。バッハ作曲「無伴奏チェロ組曲第1番」よりプレリュード、クーラント、メヌエット、ジーグが演奏されました。

 前半の最後は、これらの政吉さん製作の弦楽器による弦楽三重奏でした。曲目は、ベートーヴェン作曲「セレナーデ ニ長調」作品8からマーチ.アレグロ アンダンテ・クワジ・アレグレット〜マーチ.アレグロ。同じ製作者による楽器の織りなすベートーヴェンの小宇宙が、ウィーン風の旋律を伴って、心地よく感じられました。

 演奏後、三人からそれぞれの思い出話を披露いただきました。長谷部一郎さんのコメントをここでは紹介しましょう。
 
 「このチェロは、私の恩師である倉田澄子先生が、中学高校時代に弾かれていた楽器です。今回、久しぶりにご自宅をお訪ねし、いろいろなお話をすることができました。楽器のラベルには1925年と読み取れると思いますが、倉田先生からお借りして、毎日弾いていましたら、少しずつ楽器が開いてくるのがわかりました。古い楽器ですが、いろいろな部品は最新のものが使われています。政吉さんと現代の素晴らしい職人さんの技術が融合しているわけです。実は、3年半ぶりにスマートフォンを新調し、現代の最新技術の変化もすごいなぁと実感したばかりですが、やはりこういう人間の手で作られた古い楽器でも、どんどん変わってゆくのはすごいことだなと思いました。子どもたちのリハーサルを見ていても、一つひとつの練習を続けて行くことの大切さや楽器を大切にする気持ちが重要であることを改めて感じました。いつまでも楽器を大切にしてあげてください」(長谷部一郎さん)

 アンコールは、かつて夏期学校でもよく演奏された鈴木鎮一作曲「おねがい」。歌詞カードにある1番、2番を会場の皆さんがコーラスで参加されました。ここまでが、前半でした。

 後半は、スズキ・メソードの子どもたち200名による演奏。プログラムは、以下の通りでした。その演奏は、鈴木政吉さんの三男である鈴木鎮一先生が、幼児の音楽教育に革命を起こし、今も世界46カ国と地域で40万人が学ぶ「スズキ・メソード」が最も重きを置いた「ヒトづくり」の成果を、余すところなく表していました。

弦楽合奏 
  ・鈴木鎮一「子供の幸を」
ヴァイオリン斉奏
  ・モーツァルト/クライスラー:「ハフナーセレナーデ」K.250よりロンド
  ・エクレス:ヴァイオリンソナタ ト短調 第1楽章、第2楽章
  ・フィオッコ:アレグロ
  ・ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品3-6 第1楽章
チェロ斉奏
  ・フォーレ:エレジー 作品24
  ・ドヴォルザーク:ユーモレスク
  ・外国民謡:フランス民謡
フルート演奏
  ・ヴェニスの謝肉祭 作品14
合奏
  ・鈴木鎮一:楽しい朝
  ・鈴木鎮一:無窮動
  ・鈴木鎮一:アレグロ
  ・鈴木鎮一:キラキラ星変奏曲(ピアノ=舘 美里)


政吉ヴァイオリン、ヴィオラを提供された
ギタリストで、楽器コレクターの湯浅ジョウイチさんにインタビュー!

勢揃いした鈴木政吉さんの弦楽器たち。おそらく初めて、という貴重なステージとなりました 今回のコンサートは、政吉さんの作られた楽器の存在が重要な鍵になります。倉田澄子先生所有のチェロは、数年前にキッセイ文化ホールで倉田澄子先生自らが、スズキの子どもたちを前に演奏される場面があり、知られていました。ヴァイオリンとヴィオラは、楽器コレクターの湯浅ジョウイチさんから、ご提供いただくことができました。

 湯浅さんの本業はプロのギタリストです。ヴァイオリンやヴィオラについては、趣味で弾かれるそうです。20年くらい前に、とある中古楽器店で、鈴木バイオリンの工場で作られた「Masakichi Suzuki」とラベルのあるヴァイオリンと出会ったのがきっかけとなり、もともとの弦楽器好きの虫が騒ぎ、楽器蒐集の道を歩み始めたそうです。その時は「アマチュアの方には音が出ませんよ」と言われたそうですが、弾いてみるときちんと音が出て、しかもいい音に感じられたとのこと。それで興味を持ち、調べてみました。いろいろなグレードがあることもわかり、当時は国産楽器は外国製品より劣る、という風潮がありました。それを一つひとつ「本当にそうなのか確認してみたい」と一念発起し、湯浅さんは検証を始めたのです。

 検証の方法は、弦楽器工房の職人さんがしっかり調整した政吉さんの楽器を、ホールで実際にプロのヴァイオリン奏者に弾いてもらうという本格的なものでした。いわゆる音響実験で、プロ奏者が所有するモダンの楽器と弾き比べしてもらうなど、入念なサウンドチェックが行なわれました。

 湯浅さんが大切にしていることは、楽器を鳴るように改善したり、改造を施すのではなく、楽器が作られた当時の音響を再現すること。そのために現代の技術で調整をするというものです。つまり、この日のコンサートで聴くことのできた音は、まさに政吉さんが作られた当時の音であり、音色であったことになります。

 本業のギターの世界でも、湯浅さんは、水準が高いと言われるスペイン製が本当に国産品を上回るのかと検証し、けっして国産品が劣ることはない、と結論を導き出されています。これはヴァイオリンやヴィオラでも同じで、湯浅さんは「楽器の実力は、生産国には関係ない」と結論づけました。

 現在、湯浅さんの所有されている政吉さんのヴァイオリンは5〜6本、ヴィオラは2本。「基本的には、改造はしませんが、鈴木裕子会長が弾かれたヴァイオリンは、ネックの調整が必要でしたが、経費がかかるので、とりあえず駒を低くしたものです。そのため、最初はくぐもった音がしていたと思います」と湯浅さん。しかし、演奏の後半には、次第に音が立ってきていました。「そうなんです、本番でも音が変わっていきましたね」

 ヴィオラは、湯浅さんによれば、「表板の材料選定とスクロールを削ったのは政吉さん本人と思われます。政吉さんのスクロールは、彫りが浅いのが特色で、それが見られます」とのこと。晩年に「済韻」(SAIIN)ブランドを立ち上げた政吉さんですが、ニスの色などから、このヴィオラは「SAIIN期の自作品」であろうとの推測が成り立つそうです。※SAIIN KENKYU SHOラベルの物と同時期の政吉さんの自作品は、異なります。

 この日、演奏されたチェロは、湯浅さんにとっても初めてご覧になられたチェロでした。「1925年とのことですが、やはり当時の作り方が出ているように見受けました。間違いなく本人の手がかなり入っていると思います」とのこと。

 湯浅さんのこうした趣味が高じた検証は、これまで発表されていないそうです。今後、ご自身によるサイトでの発表などを期待したいところです。