早野龍五会長と、東京大学の酒井邦嘉教授が、
1月31日(火)毎日メディアカフェで対談。
テーマは「脳科学が明らかにする言語と音楽の普遍性」

 関東地区ヴァイオリン科の野口美緒先生によるレポートでお届けします。

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日時: 1月31日(火)18:30〜20:00
会場:毎日ホール

 東京大学の酒井邦嘉先生とスズキ・メソードの共同研究について、早野会長との対談を聞いてきました。音楽を聴く時に脳の中では何が起こっているのか…ワクワクします。以下、印象に残ったことなど、書かせていただきます。

 対談は、酒井先生の研究のお話を早野会長が質問で引き出す形で進みました。

 酒井先生は東京大学で物理学を専攻することになった時に、「生物をやりたい」と思われたそうで、ショウジョウバエの研究に続いて、サルの長期記憶について実験を行なっていました。1992年にMRIが開発され、脳に傷をつけずに繰り返し検査が行なえるようになり、人間の脳について調べ始めたそうです。

 脳科学の研究は進みましたが、分子レベルの研究が多くて、「言語」や「人間」について研究している人は少数派だそうです。

 人間は、脳の中でたくさん活動している部位にブドウ糖を送るため、血流が増えます。それをMRIで計測します。どんな刺激に対して脳のどこが活動するのか、脳の地図上に示すことができます。酒井先生は、言語について詳しく調べ、その地図ができていきました。文法獲得についても興味深い話がいろいろとありました。

 脳のあちこちが活性化する状態から、さらにエキスパートになると、逆に血流が少なくなる「省エネ脳」の状態になることもわかってきました。例えば英語の問題を、ギリギリの能力の人と、余裕がある人が解いた場合の違いです。スズキ・メソードで言えば、暗譜ですらすら弾ける、グループレッスンで子どもたちが演奏しながら、歩いたり質問に答えたりする余裕がある、そんな状態とも重なって感じました。

 言語の次のターゲットとして、先生は音楽を選びました。音楽でも言語同様、抑揚で表現したり、間が大切だったりします。

 酒井先生は、子どもの頃からヴァイオリンを習い(スズキの指導曲集で、指導者は違ったそうです)、大人になってからはフルートも吹いていらしたことに加え、以前から鈴木先生の「母語教育法」、「音楽教育を超えた全人教育」にも興味を持っていらしたそうで、酒井先生の方からスズキ・メソードとの共同研究のお誘いをいただきました。

 音楽を聴く時に脳のどこが反応するのか。「いい演奏」をどう判断するのか。そのようなデータを集めていくことになりそうです。

 今年を含めて、5年間にわたる共同研究はすでに始まっています。「音楽的な演奏」と「少々条件を変えた演奏」の2種類を聴いた時に、脳の中で起こることを見るというものです。

 まずは3名のスズキ・メソードの指導者がMRIに入った状態で音楽を聴く実験が行なわれ、MRIの轟音との戦いや音源の選定の仕方、「音楽的」としてどういう条件を選ぶか…難問との戦いは、この1月に始まったばかりです。

 今回の毎日メディアカフェには、多くの方が会場に足を運び、興味津々で聞いていらして、最後の質疑応答でも学生さんや一般の方から、様々な方向性の質問が出ました。

①楽譜を見る時の脳の活動部位について
②第3外国語習得時に一時的に母語が怪しくなったことについて
③聴覚に問題がない人の音痴について
④赤ちゃんが自ら文法を作り出すことができることについて
⑤スズキで習った時に最初に音そのものを獲得し、音名を後から脳に落とし込んで習得した経験について
など。すべて、酒井先生から詳細な返答がありました。

毎日新聞2月1日朝刊の早刷り 続く懇親会でも、研究への期待の声や具体的な進め方についての質問や意見もたくさん出されていました。今後の展開がますます楽しみです。

 まだ成果が出ていない現段階でこのような発表となったのは、興味を持ってくださる方々に積極的に参加していただき、より充実した研究につなげていきたいという先生方の熱い思いがあってこそのようです。ご興味のある方、ご一緒にいかがでしょう。

「音楽」は「言語」と「心」の架け橋なのではないか…
酒井先生は将来的に「心」についても科学的に研究していきたいと思っていらっしゃるようです。

報告:関東地区ヴァイオリン科指導者 野口美緒

毎日メディアカフェのFacebookページには、この日の内容が克明に記されています。
ぜひこちらもお読みください。
→毎日メディアカフェ

早野龍五会長と、東京大学の酒井邦嘉教授が、
1月24日(火)スズキ・メソードと東大の共同研究について、記者会見をしました。

 言語や音楽の普遍性を科学的に明らかにする共同研究に、公益社団法人才能教育研究会(早野龍五会長)と東京大学大学院総合文化研究科の酒井邦嘉研究室が取り組むことになりました。才能教育研究会は、赤ちゃんが毎日繰り返し耳にする言葉をいつの間にか話せるようになるような「母語教育法」に基づき、「スズキ・メソード」を推進しています。酒井研究室は20年にわたって言語の脳内機構を明らかにする研究をしてきました。

 共同研究では、楽器のレッスン経験のある小学生から大学生の生徒を対象に、脳構造と脳機能を解析するイメージングの手法で、音楽に関連した神経回路のデータを得ることを目標にしています。特に「演奏評価」に着目して、人間に固有の言語機能との連関を明らかにします。具体的には、同じ曲の異なる演奏を参加者に聞かせ、どちらがより音楽的に優れた演奏かを判断する際の脳活動をMRI(磁気共鳴画像)で可視化する計画です。音楽経験に基づく個人差や、曲への客観的把握能力と比較しながら、脳のどの部分が判断と相関するかを解明します。合わせて、未だ分かっていない「美意識」の脳内機構にも迫ろうとする壮大なプロジェクトです。

日時:2017年1月24日(火)16:00〜17:00
会場:渋谷ヒカリエ11階Dルーム

ところで、酒井邦嘉先生は、スズキ・メソードの会員向け機関誌編集部からのインタビュー記事でも、登場されていました。
2010年のことです。
当時から、酒井先生は、スズキ・メソードとの共同研究を望んでいらっしゃったことがわかります。