レクチャーコンサート「鈴木政吉と大府」を大府市が主催 

 『日本のヴァイオリン王〜鈴木政吉の生涯と幻の名器』の著者で、愛知県立芸術大学の井上さつき教授が、1月20日(土)、スズキ・メソード出身のヴァイオリニストの桐山建志さんらと、愛知県大府市のおおぶ文化交流の杜こもれびホールで、レクチャーコンサート(主催:大府市文化振興課)を開催しました。

 開催にあたり、大府市の岡村秀人市長から「大府市は、スズキ・メソード出身の世界的なヴァイオリニスト、竹澤恭子さんの出身地です。そのスズキ・メソード創始者の鈴木鎮一さんのお父様、鈴木政吉さんも大府に大変ゆかりのある方です」と、ご挨拶をいただきました。

 第1部の「鈴木政吉と大府」と題された井上先生のレクチャーでは、三味線を作っていた政吉がヴァイオリンに出会い、見よう見まねで製作に没頭し、明治21年に第1号を完成。家業の三味線づくりを廃業し、寝食を忘れ、ヴァイオリンづくりに励んだ様子や、その人となりが語られました。

 量産化への歩み、東京や大阪での販路の拡大、さらには内国勧業博覧会への出品、加えてシカゴやパリでの万国博覧会での高い評価の獲得。一時は1000人を越す従業員を抱える世界一のヴァイオリン工場になったことが紹介されました。しかし、バブル需要の後の生産調整に失敗し、会社倒産の憂き目にも遭遇。1934年に大府に転居。翌年にドイツのヴァイオリンの町、マルクノイキルヘンにならい、大府に分工場を建て、その敷地の隣に研究所を作り、80歳を過ぎても高級手工ヴァイオリンの製作に没頭したと言います。

大府での政吉をよく知る福島淑子さんのお話に、この日の聴衆は、誰もが感動しました レクチャーの後半には、当時の大府分工場長の立松工場長さんのお嬢さんである福島淑子さんがサプライズで登場され、晩年の政吉のエピソードが紹介されました。福島さんは、4年前の5月に政吉ヴァイオリンが新聞で報道された時に、井上さつき先生の勤める愛知県立芸術大学に、以下のような、当時、福島さんが5〜6歳の頃の思い出として、手紙を出されていました。

「政吉さまのお住まいは工場から少しはなれた木々にかこまれた小高い静かな場所でした。夏でも白い着物をお召しになられ、座布団に正座され、工場で出来上がった白木のヴァイオリンを中指を丸くされコンコン、コンコン、一つ一つ、表の甲、裏の甲をたたかれ、製造途中のヴァイオリンの響きをお調べになられていたようです。本当に真剣なお姿と一日中コンコンという音は今もはっきり心に残っております。静かなお部屋でしたので、近くに行きますと、足音だけでも「こら!」としかられました。」

というものです。この日のレクチャーコンサートの舞台でも、コンコンという音の響きとともに、エピソードを紹介してくださいました。

 第2部のコンサートでは、政吉が精魂込めた1929年製のヴァイオリンの音色を桐山建志さんの端正な演奏で、じっくり聴くことができ、ハーモニクスまでよく響くヴァイオリンの音色に、政吉の思いが重なって聴こえました。

曲目は、以下の通りでした。
・ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調作品78「雨の歌」から第1楽章
・バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番ト短調BWV1001からアダージョ
・ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調作品47「クロイツェル」から第1楽章
・ブラームス=ヨアヒム:ハンガリー舞曲第5番
・ドビュッシー=ハイフェッツ:牧神の午後の前奏曲
・クライスラー:前奏曲とアレグロ
・サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン
(アンコールは、ドヴォルザーク:ユーモレスク)