50年間、読み継がれてきた名著を
今だからこそ、読み返そう。

講談社現代新書  定価:本体760 円(税別) スズキ・メソードをもっと知るためには、創始者の鈴木鎮一先生が残された書物に目を通すことが、まずは入口になりますその中でも、今回紹介する「愛に生きるは、ロングセラーの人気を誇ります講談社現代新書として1966816日初版、今年で、ちょうど50年の月日が流れたことになります。これまでに91刷43万部のロングセラーとなっています。

 ここに記述された内容は、一つも色褪せるどころか、むしろこの時代にあって、音楽書の域を超えた啓蒙書として脚光を浴びています。スズキ・メソードの0~3歳児コースでは、母親教室のテキストとして、輪読が行なわれることが多く、ベテラン指導者が若い母親たちに、書かれている内容を紐解く姿が見られます。

 前きでは内容を次のように紹介しています章では、人の能力はどのようにして育つものか、第章では平凡な人の子が、いかにして人間として立派な演奏家に育ったか、第章では、無能な自分を有能にし、平凡を非凡とするにはどうしたらよいかを、具体的な事実を語りながら記述、そしてそういうおまえ自身はどうなのか、という疑問に応えたのが第四章と第五章さらに第六章では、あらゆる理屈を抜きにして、そうしなければどうにもならない「行」を強調しています第七章、第八章ではヴイオリンの才能教育法とその成果が生んだ挿話を拾っています新書判で手軽に読めるサイズですが、内容は深く、非常に読み応えがあります。208ページには、小学1年生だった早野龍五会長が、松本を訪れたウィーン・アカデミー合唱団を前にして、バッハのa-mollを弾くエピソードも紹介されています。

 鈴木鎮という希代の教育者が、その生きた時代に感じた一つひとつの出来事を読み進めると、時間が経つのも忘れるほどベルリンでのアインシュタイン博士やクリングラー先生との交流、東京でのカザルスとの出逢いなど、歴史上の人たちとの邂逅は、それだけで1本の映画ができるくらい濃密です

 何よりも「能力は生まれつきではない」「能力は育むもの」であり、どの子も自在に母語を話すように「環境こそが大切」「どの子も育つ」と訴えた鈴木鎮一先生の考え方に、どれだけ勇気づけられることか「大時代に読んだ時の感銘が、実際の子育てに役立った」という若い母親のように、育児として読むのもよし、子育てに疲れ始めた母親にはビタミン剤になり、教育に従事するあらゆる分野の人々の必読のでもあります

 幼児教育に限らず、広く人間の心のあり方にまで言及していることが、時代を超え、全世界で読み継がれている所以でもあります。この秋、ぜひ読を