6月5日(月)の一般公開プログラムでは、早野龍五会長の基調講演
"世界の夜明けは子供からー世界が「再発見」するスズキ・メソードの先進性"と
卒業録音から選ばれた子どもたちの生演奏をお聴きいただきました。

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第1部 早野龍五会長 基調講演
 ”世界の夜明けは子供からー世界が「再発見」するスズキ・メソードの先進性”と題された講演タイトルにあるように、昨今、国内外で幼児教育の重要性が指摘されています。早野会長は、冒頭に鈴木先生の言葉を引用され、71年前にスタートしたスズキ・メソードの考え方をあらためて紹介されました。

 一つには、スズキ・メソードが母語教育を根底にした教育法であり、「どの子も育つ 育て方ひとつ」であること。そして、人を育てる教育であること。「音楽を教えることが一番の目的ではなく、善良な市民を作りたいのです」という鈴木先生の言葉も、かつて制作された映像で流されました。「子どもたちが誕生の日から、いい音楽を聴き、演奏することを学べば、子どもたちは感受性、規律、忍耐力などを発展させることができます」とナレーションが語りかけました。

 これを受けて、スクリーンでは5月に報道されたばかりの新聞記事が大きく映し出されました。政府が推進する教育改革の骨太の方針として、幼児教育重視の流れができつつあり、その根拠として、アメリカで1960年代から40年にわたる「ペリー就学前計画」という有名な調査が用いられていること。これは、低所得者の3-4歳児を対象に二つに分け、2年間にわたり質の高い教育を受けさせた場合とそうでない場合の40年間の追跡調査で、学習や労働意欲、忍耐力、持ち家率や平均所得でも大きな違いがあったというものです。

 その上で、幼児教育への投資効果が一番高いことがわかってきたという最近の新聞記事も紹介されました。「鈴木先生が71年前に始められた時、その着想、その信念、その先進性を世界が再発見しつつある、ということです」と早野会長。

紹介された書籍です 「なぜ幼児教育が大切なのか」
 続いて早野会長が紹介されたのが、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンの著作「幼児教育の経済学」(東洋経済新報社、1,728円)でした。ヘックマンは、「教育投資は幼児期にやるべき、粘り強さ、集中力を身につけるには幼児教育が大切である」とOECD(経済協力開発機構)のレポートでも発表している人です。経済学者という視点から、どのように幼児教育を受けた人にメリットがあるか、そして国にとってもどのようにメリットがあるかを数値的に表しました。

 早野会長は重要な部分として次の点を説明されました。「子どもの能力を学力テストなどで測れるものを、ヘックマンは”認知能力”と呼び、これに対する忍耐力、自制心、社会性、協調性、やり抜く力のようなもの、言ってみれば性格みたいなものを”非認知能力”と呼びます。この”非認知能力”が、言わば”生きる力”です。子どもの将来の成功について、ヘックマンは、幼児期に培われた”非認知能力”が大切であるとし、数値化し、唱えています。こうした動きを背景に、国としても幼児期の教育を重視しようという動きに世界がなってきていて、日本でもそのようになってきました。非常に重要なことです」

 「もちろん、”非認知能力”は生まれつきではないわけです。では、どうやって身に付けさせるか、です。私たちのスズキ・メソードは、まさにそれをやっています。良い音楽を聴き、演奏することを学べば、子どもたちは感受性、忍耐力を発展させることができると鈴木先生は仰っておられます。鈴木先生は、このことを71年前にわかっておられたわけです。そこにようやく世界が追いついてきました」

 さらに、指導曲集が優れた構成力と楽しさにあふれていること、子どもたちは指導曲集を繰り返し練習をすることで、知らず知らずのうちに、楽器が弾けるだけでなく、達成感などのいわゆる”非認知能力”を得ることになり、楽器を離れても一生の宝物になることにも言及されました。「何か新しいことを身につけるには、それなりに時間がかかり、それなりに訓練するための事柄が必要なんだなということが自分で気のつくことができるかどうか、そこが大切です。子どもの頃にきちんと楽器を弾けることを経験したことが、一生の宝物になるというのは、そういうことです」

 幼児教育で一番大切なことは何か。早野会長は「楽しくやること」と明快に話されました。東京大学で3月に行なわれたご自身の最終講義でも、「研究をいかに楽しくやるか」と論じていらした会長らしい言葉です。

 「われわれの生活は、今の時間を生きている生活です。ですが、文化やいろいろなものは歴史を背負っています。その意味で、夏目漱石の小説を読んだり、ダ・ヴィンチの絵を鑑賞することも意味があります。しかし、音楽の場合は、昔の人が作曲した作品を現代のわれわれが演奏するわけで、小説や絵と違って、われわれが能動的に関わることができます。クラシックの名曲を演奏することは、昔の人の感性に自分で語りかける行為です」

 ここで早野会長は、スクリーンに1730年にバッハが作曲した「2つのヴァイオリンのための協奏曲」冒頭のスコアを映し出し、その隣に、1905年にアインシュタインが書いた相対性原理の数式を並べました。「どうしてこういう数式になったのか、学生時代に格闘したものです。そうやって物理学者は育ってきました。物理学と音楽は全然違うように見えるかもしれませんが、こうやって並べてみると、時空を超えて、昔の人の知性や感性と語り合う行為は、まったく変わりありません。その時代の文化、背景はどうなのか、モーツァルトらしく、バッハらしく弾くとはどういうことなのか、考えるのと同じです」というもの。面白い比較でした。

 ここで、早野会長は「どうやって”子どもが育つ”ということが言えるのか」と問いかけました。答えは、鈴木先生の著作「愛に生きる」にあるとのこと。「愛というのは、自分が持てる様々なリソースです。自分のできることを少しでもいいから他の人に対して、特に次の世代に使える人、思いを働かせることができる人になることが大切です」

 そして、4月から5月にかけて英国の公共放送BBCが取材した、かつてスズキ・メソードで育った人がどのように育ったか、をラジオとテレビで紹介した番組を上映。マンスリースズキ5月号でも取り上げた番組です。「ここで紹介された元才能教育研究会常務理事の紿田(たいだ)英哉さんと、弟でスズキ・メソードOB・OG会副会長の紿田俊哉さんは、日本の経済を支えた商社マンとして、ともに活躍しましたが、今でもドッペルコンチェルトを弾かれます」と紹介。

 最後に、早野会長が紹介された文章が印象的でした。ニュートンの言葉とされますが、真偽のほどは定かではないそうです。

 If I have seen further it is by standing on the shoulders of giants.
(私がより遠くまで見渡せたとすれば、それは巨人の肩の上に乗ったからだ)

 「ジャイアントというのは、一人ではなく、歴史上に積み上げられたものを指します。そこに立つことで、一歩先を見渡すことができるという意味です。鈴木鎮一先生は明らかにジャイアントです。われわれは、鈴木先生の肩の上に立たせていただいて、一歩先を見る。そのことで子どもたちが育ち、世界がより良い世界になることを信じて、日々、子どもたちに接すること、それがスズキ・メソードだと思います」と締めくくられました。

第2部 チルドレンコンサート
 スズキ・メソードの大きな特色に卒業録音制度があります。詳しくは、マンスリースズキ2016年10月号をご覧ください。
→スズキ・メソードの卒業録音制度
 早野会長の基調講演を受けて、この日、ステージには10人の子どもたちの生演奏が披露されました。いずれも2016年度の卒業録音で特に素晴らしい評価を得たものばかりでした。( )内は、録音当時の年齢です。



・ヴァイオリン科前期中等科(5歳)
  ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 第1楽章
・ヴァイオリン科中等科(6歳)
  ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 ト短調 第1楽章
・ピアノ科前期中等科(7歳)
  バッハ:パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV 825よりジーグ
・ヴァイオリン科前期高等科(7歳)
  コレッリ:ラ・フォリア
・ピアノ科前期高等科(10歳)
  モーツァルト:ピアノソナタ 第11番 イ長調 K.331 第1楽章
・チェロ科才能教育課程(10歳)
  ボッケリーニ:チェロ協奏曲 変ロ長調 第1楽章
・チェロ科研究科A(12歳)
  バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調 BWV1009よりプレリュード、ジーグ
・ヴァイオリン科研究科B(12歳)
  ヴィターリ:シャコンヌ ト短調
・ヴァイオリン科研究科C(9歳)
  メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64 第3楽章
・フルート科研究科C(16歳)
  尾高尚忠:フルート協奏曲 第1楽章