◉エル・システマ駒ヶ根教室の発表会の様子を、
黒河内健 業務執行理事からのレポートでお届けします。

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 3月17日に駒ヶ根市文化会館小ホールでエル・システマジャパン「駒ヶ根子どもオーケストラ 平成30年度弦楽器教室発表会」が開催されました。昨年11月号でご報告した通り、エル・システマジャパンと才能教育(スズキ・メソード)の事業協力協定に基づき、甲信地区ヴァイオリン科指導者の花村祐美先生が、昨年9月より毎週末<エル・システマジャパン駒ヶ根子どもオーケストラ>の生徒さんの指導にあたられています。

 <エル・システマジャパン駒ヶ根子どもオーケストラ>は、駒ヶ根市とエル・システマジャパンの事業協力により、2017年夏にスタートしました。昨年10月に練習会場にお邪魔した際は、17年から始めて1年を経過した生徒さんに加え、18年夏に新たに加入して自分の楽器を手にした生徒さんたちが楽器の構え方を花村先生から習っていました。今回は出演生徒総数が80名以上とさらに増え、昨年夏からのメンバーも演奏に参加するとのことで、生徒の皆さんの成長を楽しみに出かけました。

 養命酒の工場や千畳敷カールのロープウェイで有名な駒ヶ根市は、天龍川と木曽山脈に挟まれた自然豊かな地域で、会場の駒ヶ根市文化会館も天竜川越しに赤石山脈、反対側には木曽山脈が迫る丘陵地帯にありました。会場の小ホールに入った瞬間、あまりの熱気で圧倒されました。300名は入れそうな会場は来場者であふれ、壁際には立ち見の家族の方や地元の聴衆でびっしり。駒ヶ根市の職員さんがきびきびと走り回り、少しでも座ってもらおうと急ごしらえの折り畳みいすの設置に大忙しの状態でした。

 14時半に開演すると、まず駒ヶ根市から本多俊夫教育長のご挨拶、その後エル・システマジャパンの菊川穣代表もご挨拶をされました。本多教育長からはエル・システマや毎週金曜夜、土曜日に生徒を練習に送り迎えする保護者の皆さんへの謝辞をいただきました。菊川代表からは駒ヶ根市の理解・支援についての返礼と、エル・システマはベネズエラでスズキ・メソードの影響のもとに始まっているという歴史から、現在の駒ヶ根での活動への協力についても、特別にご紹介をいただきました。

 このあといよいよ生徒さんたちの演奏が始まりました。
・鈴木鎮一:キラキラ星変奏曲(進度別の3グループで)
・コレルリ:合奏協奏曲Op.6-1 (上級者で。須田覚志君と加藤淳之介君のソロもあり)
・パッへルベル:カノン(弾ける生徒さん全員で)

 昨年10月にはヴァイオリンを顎で挟むのが難しく、楽器を構えるのがやっとだった生徒さんたちも、立派にキラキラ星を演奏していて、会場の家族や友だちから大きな拍手で声援を受けていました。楽器の構え方はもちろんのこと、スズキの特色でもある足の揃え方については、花村先生が徹底して教えて来られたそうで、当日も花村先生の合図で、きれいに揃ってお辞儀や演奏をしていました。全員が立派にキラキラ星を合奏する姿は、実に嬉しそうでした。

左から花村先生、小山先生、大庫先生 生徒さんの演奏が終わると、最後に、エル・システマジャパンの小山浩実先生、大庫(おおくら)るい先生(スズキ・メソード 鈴木景子先生クラス出身)と花村祐美先生が、トリオでドヴォルザーク作曲、鈴木鎮一編曲の「ユーモレスク」を合奏。先生方の立派な姿勢から響く優美なヴァイオリンとヴィオラの音色に、生徒さんたちは「早くうまくなってこんな曲を弾きたいな」と、憧れの表情で聴き入っていました。
 

 菊川代表の冒頭のご挨拶と終演後の保護者向けのお話の中に、本会の指導理念とも通ずる興味深い内容がありましたので、ご紹介しましょう。

昨今の教育では‘STEM’(ステム)の重要性が叫ばれているそうです。‘STEM’とはScience, Technology, Engineering, Mathematics(科学・工学・技術・数学)だそうですが、菊川代表は、最近の海外の教育では1文字加えた‘STEAM’の重要性が叫ばれている、と紹介されていました。追加されたAはArtで、‘STEM’を駆使する人間は、芸術に触れて心豊かな存在になって初めて‘STEM’を世の中に役立つように駆使できるという考え方とのこと。これは<非認知能力>という概念とも通じるもので、エル・システマの活動も楽器の上達だけでなく、楽器を習得する過程で得られる能力と芸術に触れて、豊かな人間になることを目指しています、というお話でした。スズキ・メソードとも相通じた内容です。

 エル・システマジャパンの小山浩実先生からのメッセージです。

 花村先生のご指導により、今年から参加している多くの子どもたちに「おけいこ」の習慣がつきました。その結果、それぞれの子どもたちが毎週確実にステップアップすることができました。そして、「できなかったことができるようになった」という実感がさらに子どもたちの意欲をかきたてることにつながっていたように思います。

 「キラキラ星変奏曲」ではみんなで呼吸を合わせて演奏することを学んだ子どもたちが、来年度以降はみんなで美しいハーモニーを奏でることや、今回上級生の「カノン」の合奏に参加した子どもたちのように、憧れの曲を演奏する楽しさを味わってもらえることを願っています。

 スズキ・メソードの花村祐美先生からのメッセージです。


 ステージで子どもたちの演奏する姿の立派さを目の当たりにし、子ども自身の努力が実ったことに大変感動しました。また、ご家族の皆様の協力やレッスンをサポートしてくださった先生方への感謝の気持ちを改めて抱きました。

 1年生のある生徒が、2年生を中心としたクラスの演奏を聴いて、「みんなセロテープの音(=良い音)でひいているね。こんな風にひきたい!」と言いました。ただ弾くのではなく、良い音で弾きたいという心が育ったことが非常に嬉しく、子どもの受け取る能力の高さに驚くとともに、良い音を伝える責任の重さを感じる言葉でもありました。

 「グループで育つ」、これはまるで魔法でした。グループレッスンは一人ひとりに接する時間が少ないという点があるものの、誰かが高い感覚で受け取ると、それを見て、聴いたとたんに、ほとんどの子どもたちができるようなり、私はほんの少し手助けをするだけで、立派にできてしまう場面に何度も遭遇しました。これは、良い音を求める心だけでなく、人に対する心配り(休んでいたお友だちに分かりやすく教える、後から来たお友だちのためにスペースを作るなど)にまで及びました。

 「指導者とは尊い仕事なのだ」と実感することができました、これからも、子どもの幸せのためにできること、やるべきことを探し続けていこうと、あらためて決意しました。