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亡き師を思う、かつての生徒たちが集結!


 5年前に急逝された久保田顕先生(元・東海地区チェロ科指導者)の教室40周年を祝うコンサートが、8月26日(日)に名古屋の千種文化小劇場で開催されました。久保田先生を愛称の「クボッチ」と呼び、特に親交の深かった林峰男先生もスイスから駆けつけ、プロのチェロ奏者として活躍される若手の皆さんや、様々な職業につきながら今もなおチェロを愛好するアマチュア奏者の皆さん、そして現役の生徒さんまでが一堂に会しての記念音楽祭。マンスリースズキ編集部も、久保田先生の教室の後を継がれた廣岡直城先生からのお誘いもあり、チェロとカメラを持って参加させていただきました。

 前日の8月25日(土)、半端ない名古屋の酷暑の中、到着した千種文化小劇場「ちくさ座」は、外観が蔦に絡まれ、中は八角形の舞台を250席あまりの座席が取り囲む円形劇場で、演劇空間としては非常に面白い展開ができそうな場でした。しかし、チェロアンサンブルでは、お客様には背中を向けての演奏になります。今回の記念音楽祭の幹事として大活躍された豊田教室出身の柴田敦史さんによると「かつて、久保田先生もここを発表会で使えないか、と下見にいらしたことがありましたが、生徒が落ち着かないだろうから、やめよう!」と即決だったといいます。それでも、今回のような、亡くなられた先生を各世代で悼む気持ちを音楽として心を響き合わせるには、むしろ好都合の舞台だったのではないでしょうか。アンサンブルで大事な、お互いを聴きあうためのアイコンタクトも楽にできました。そして、練習を見守る舞台の奥には、久保田先生の生前のにこやかな姿と教室30周年の時の達筆な書が飾られていました。

 練習は、幹事の柴田さんの軽快な進行で進み、実際の曲作りは廣岡先生と峰男先生によって、進められました。特にフォーレの「エレジー」では、誰もがソロを指導曲集で習ってきているわけですが、今回はチェロ・アンサンブルでの「エレジー」でした。峰男先生にソロをお願いし、残りのメンバー全員で7パートに分かれての伴奏を受け持つことになり、1対30人ほどの音量のバランスなどには、繊細な神経を必要としました。それでも、様々な曲目が用意され、そのつどあらかじめアナウンスされていたパートへの移動なども確認しながら、曲作り。単一楽器同士のチェロ・アンサンブルだからこそできるこのスタイルで、結果的にいろいろな方々(プロの皆様も!)との交流も練習の中で生まれることになりました。

 初日の練習後は、懇親会でした。教室が違ったり、世代が違うこともあり、初対面であったり、あの有名な方ですね、的な出会いもあったりで、ユニークな時間となりました。それぞれの自己紹介とともにお話された久保田先生の思い出も素敵なものばかりでした。ちょっと思いつくままに、列挙してみましょう。

・病床でクボッチは40周年の話をしていたからね。だから、今回呼んでくださったのがとても嬉しい。そしてこういう機会だからこそ、古いメンバーたちも集結したことが嬉しい。クボッチがみなさんの初歩の時代をきちんと教えていたことが、こうして集まったメンバーを見るとよくわかります。明日は、いい演奏を、いや楽しい演奏をしましょう。(林峰男先生)

・いつも違う指番号で弾いていたので、毎回指番号を直されていました。(笑)

・小さい頃、椅子に座れなくて走り回っていて、先生が座らせようとした時に先生の腕を噛んでしまったことがありました。でも先生は噛んだことを叱らなくて、歯型を見て褒めてくださいました。こういう「教育」もあるんだなぁと。(笑)

・家が隣で、レッスンをサボっていたら、「いるのわかっているよ、そろそろレッスン始めようか」と呼びに来てくださったりしたことがありました。(笑)

・「雀のお宿」での夏期合宿での宝くじコンサートでは胃が痛くなったことを思い出します。

・父が久保田先生の最初の生徒で、僕が先生の最後の生徒になってしまいました。

・学校の宿題で、友だちにプロフィール紹介を書いてもらうという宿題があったので、久保田先生にお願いしたことがありました。「趣味はチェロ」と書いてありました。(笑)

・思い出を一つに絞るのは難しいですが、卒業録音を録っている時に、外にわらび餅を売りに来た声が聞こえ、「早く来ないと、わらび餅行っちゃうよ」というので、久保田先生は「早く行っちゃってください」とおっしゃっていたことを思い出します。(笑)

・教室ができて5年目から30年間、久保田先生に教えていただきました。温厚な久保田先生に感謝でいっぱいです。こういう会ができたことを嬉しく思います。

・久保田先生とは駐車場から教室まで、よくご一緒に歩くことが多く、いろいろなCDのお話をすることが多かったんです。その中で「峰男先生のアリオーソは素敵ですね」という話をしたことがあり、今、廣岡先生にアリオーソを習うことになり、涙が出るほど嬉しい気持ちでいます。

・北海道のチェロ全国大会に出る時に、巻数が上の曲にチャレンジさせていただいたことをよく覚えています。

・ずっと膝の上に乗せていただいていた思い出が一番多いです。

・リズムの椅子を並べてくださっている時に、一人だけでんぐり返しをしていたりしました。先生のご飯タイムを、一番よく見た生徒かもしれません。

・それで思い出したけれど、午後4時くらいになると「ケーキタイム」がありました。

・そのケーキとタバコを途中からやめていましたね。

・卒業録音のダメ出しは、本当によく覚えています。それで、今、娘が東京で別の先生に習っていますが、メヌエット第2番の録音が微妙なできだったんです。その先生が「う〜ん、横に久保田先生が見ておられるので合格とは言えないんだよ」とおっしゃっていました。(笑)

・久保田先生の最初の生徒7人の中の一人です。思い出を話し出したら5時間くらいになると思います。何かにつけて僕がやったことは、久保田クラス初の〜という冠がつきました。先生が僕らを育てるのに一生懸命でいらしたこと、教室を軌道に乗せることに力を注がれたことを後で知って、涙が出ました。こんなに苦労して、教室を育てられたのだなぁと。最後のお見舞いの時に言われたのは、「お前がいるから大丈夫だ。レッスンは廣岡に任せたから、教室はお前に任せる」と。これからもいろいろと連絡を取らせていただきますので、よろしくお願いします。

いよいよ本番当日!


 8月26日(日)当日は朝9時に集合。ちょっと早めに来たメンバーたちは、9時きっかりのゲートオープンまで、かなり待たされた形になりましたが、気合は十分。いい演奏をしようと気持ちが高まって来ます。

 前日に配布された、お揃いの素敵なTシャツを身にまとい、「心も体も今日の演奏を天国の久保田先生に届けよう」という気持ちがお互いを鼓舞しあっているかのようです。ホワイエには、久保田先生の教室でのレッスン風景のビデオ映像や、30周年、35周年の時のプログラムや愛知岐阜支部便り用に書かれた「2011年 新年を迎えて」の原稿などが展示され、舞台奥の先生のお写真の隣には、昨夜の懇親会で振る舞われた「久保田 万寿」も並んでいました。そんなわけで、2日目の朝の練習は、昨日よりも一層熱のこもった練習となり、曲ごとの座席移動もスムーズになってきました。また、昨日に続き、第2部に出演される有志の皆様の練習には、多くのメンバーが注目し、その運弓や音楽を作り上げてゆく様子をつぶさに見守っていました。

 さて、肝心のプログラムを紹介しましょう。全体は3部構成で、13時開演でした。

第1部 チェロアンサンブル
・モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス
・久石譲:おくりびと
・ワーグナー:歌劇「ローエングリン」よりエルザの大聖堂への行進
・藤江隆男:風の名前を教えて
・クンマー:二重奏曲 作品22-1 第1楽章
・オッフェンバック:二重奏曲 作品51-2 第1楽章
・フォーレ:エレジー
・クレンゲル:讃歌

第2部 有志の演奏
・オッフェンバック:二重奏曲 作品51-1
   平野寛治・黒田小百合
・ポッパー:2つのチェロのための組曲 作品16 第1〜3楽章
   香月麗・佐藤桂菜
・ハイドン:バリトン三重奏曲 第101番 第1〜3楽章
   中木健二・森山涼介・細井唯

第3部 合奏
・キャベジダウン
・いつも何度でも
・メヌエットト長調・ユダスマカベウス
・狩人の合唱・アレグロ
・リゴードン・かすみか雲か
・むすんでひらいて・フランス民謡
・キラキラ星変奏曲

「偲ぶ」という行為には、音楽の力が気持ちよく寄り添う

 第1部の曲目の選曲は、とても素敵で、演奏していて久保田先生のことを偲ぶのにぴったりの曲や、「こうやって元気で教室の音楽をみんなで作り上げていますよ」というメッセージになる曲もあり、誰にとっても思い出深い時間となったようです。「偲ぶ」という行為には、音楽の力がとても気持ちよく寄り添うことを実感しました。第2部の有志の演奏では、大学生のデュオ、そしてアメリカでチェロを学んでいる学生さんと昨年の日本音楽コンクールチェロ部門第1位の共演、さらには若手チェリストとしてそれぞれの場面で活躍されておられるトリオ演奏など、どれも聴きごたえのある演奏が続きました。第3部では、現在の廣岡先生クラスの生徒さんたちも加わり、アンケートで人気ダントツだった「キャベジダウン」をはじめ、スズキの曲をチェロアンサンブルでお届けしました。

 師を思う気持ちがこうしてチェロアンサンブル、という形でこの日が迎えられたことを、きっと久保田先生はとても喜んでいらっしゃったことでしょう。幹事の柴田さんが、「この頭のあたりで、きっとみなさんを見守ってくださっていますね」もその通りだろうと思いますし、この日の素敵な青色のTシャツをデザインされた杁中教室出身の行徳達之さんのメッセージがとても印象に残りました。「柴田さんと一緒に、最後までロゴをどこに置くか検討したのですが、背中にデザインしたのは、久保田先生に自分たちの背中をあと押して欲しい、今後の人生も久保田先生が後押しをしてくださっている、そんな期待の気持ちからでした」。その通りですね。廣岡先生からは、「今の子どもたちにも、40年の歴史がつながっていくといいなと思います。駆けつけてくださった林先生、そして演奏家の皆様にも感謝しますし、裏方を手伝ってくださったお母様方にも心から感謝します。そして永久幹事の柴田さんにも」とのご挨拶がありました。

 打ち上げ会場では、幹事の柴田さんが、お母様方との素晴らしい連携プレーを見せました。本番中の写真を早速フォトフレームに入れて、林先生やプロ奏者の皆様にプレゼントされるなど、素晴らしいおもてなしぶりを発揮。久保田先生がいらしたら、ニコッとされるような抜群のチームワークの良さを感じさせました。スズキらしい、世代を超えたファミリーの絆の要素があちこちに感じられ、心地よい2日間となりました。