今年、デビュー43周年を迎え、1708年製(310周年)ピエトロ・グァルネリで演奏活動を続けるかたわら、東京音楽大学や東京藝術大学での教育活動やチャリティ活動、BSジャパン(毎週土曜日朝8時)「おんがく交差点」では司会・演奏を務め、練馬区文化振興協会理事長であり、川崎市市民文化大使、高知県観光特使を務めるなど八面六臂のご活躍を続けておられる大谷康子さん。今度はご自身初めてとなる著作「ヴァイオリニスト 今日も走る!」を出版されました。

 全体は、3部構成。第1章では「ヴァイオリニストへの歩み」と題され、スズキ・メソードの西崎信二先生との出会いからレッスンの内容について、克明に記されています。また、テン・チルドレンに選ばれ、その時の体験から「音楽は国境をはじめ、いろいろなものを乗り越えて、わかりあえる素晴らしいものだ」という強い印象を心に刻まれたこと、それが現在の音楽活動にも深く繋がっておられることが記されています。また、鈴木鎮一先生のメッセージが、大谷さんが日頃から考える教育への思いと見事に重なっていることにも言及。ご自身がびっくりされている姿も描かれています。続く第2章では、「宝物となった数々の出会い」について書かれ、第3章では「私の夢」が記されています。

 また、大谷さんが日頃からいろいろな事柄をお考えになられ、その思いを伝えたい、という強い意思が感じられる10本のコラムが用意されています。また、これまでに発売されたCDに未収録の以下の6曲も収録されていて、とてもお得です。
■CD
・愛の喜び(クライスラー)
・ユーモレスク(ドヴォルザーク)
・雪だるま(コルンゴルト)
・メロディ〜なつかしい土地の思い出(チャイコフスキー)
・ロンディーノ(シベリウス)
・美しき夕べ(ドビュッシー)

 そこで、早速、大谷康子さんにお話を伺いました。

 実は、常日頃、コンサートのトークでよくお話しさせていただいていた内容を文章にして欲しいという声が、よく届いていました。そこで1冊の本にようやくまとめることができたのですが、今、私があるのはスズキ・メソードのおかげと言っても過言ではありません。その意味からも、この本を、今、スズキで習われているご家庭の、特にお母様方に読んでいただきたいと思っています。

 鈴木鎮一先生がおっしゃっていた事柄は、小さかった頃の私にはわかりませんでしたが、大学生になった頃からいろいろな場面で私自身が遭遇する環境で、鈴木先生の教えが、見事に私自身の思いに重なることに気づき、改めてびっくりしたのです。それは、音楽が世界平和に繋がることです。音楽を通して世の中を元気にし、明るくなるようにするには、教育をどうしたらいいか、そこが肝心であることに思い至りました。

 「今日も走る!」というタイトルは、私自身が大学生時代から本当によく走ってきたことに由来していて、私にぴったりのタイトルだと思っています。「なぜ、そんなに走るの?」と忙しく動く私に質問がよくありますが、伝えたいテーマがたくさんあるからです。そして、大きな目標に向かって走り続けることが、私自身であるからだと思っています。

 コンサートでは、客席に降りて「チャルダッシュ」などを演奏することがよくあります。それを評して、顔を曇らせる方々もいらっしゃいますが、私は客席のお子さんたちに間近でヴァイオリンの音色や指づかいを見ていただきたい、という思いが強いのです。実際、何年も前のコンサートでそうした場面に出会い、プロになりたいと思ったお子さんが若きヴァイオリニストに成長され、2016年の「題名のない音楽会」でステージで再会した時は、涙にあふれた思い出があります。また、脳梗塞を起こされていた方が、私と握手をしたくて、腕が上がるようになったというエピソードも私をびっくりさせました。

 そのように間近でヴァイオリンを聴いていただくことで、人に変化をもたらすことができる、人生を変えることができることを強く感じました。その意味から、私自身のヴァイオリン演奏が皆様にいい影響をもたらすためにも、これからも走り続けることが大切と感じているのです。


 ヴァイオリニスト 今日も走る
 株式会社KADOKAWA発行 定価:1,900円+税
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