特別展 鈴木政吉が住んだ町
〜幻となったヴァイオリンの里

 マンスリースズキ10月号でお知らせしましたように、現在、愛知県大府市歴史民俗資料館で、鈴木鎮一先生の父、政吉さんの特別展が、2018年1月21日(日)まで開催されています。この大府市に、鈴木政吉さんの長男、梅雄さんが鈴木バイオリンの大府分工場を新設したのが昭和10年(1935)年のことでした。明治23年(1890年)に政吉さんが鈴木バイオリンを名古屋に創業し、大正時代には世界一の工場と言われるほどの生産台数を誇っていましたが、昭和4年(1929 年)の世界恐慌により会社は一旦、倒産します。政吉さんは第一線を後任に譲り、長男の梅雄さんの奔走により、大府の新天地に分工場を設立。政吉さんは、その隣に建てられた済韻研究所で、ヴァイオリンの音色の研究に亡くなるまで没頭されたのです。

 なぜ大府に鈴木バイオリンの分工場が設置されたのか。今回の展示では、鈴木鎮一先生が昭和7年(1932年)に著した「日本ヴァイオリン史」の該当ページを展示することで、その理由を解き明かしていました。

(前略)
 最近に於いては、獨逸(ドイツ)のマルクノイキルヘンの例に倣ひ、名古屋近郊3哩の地點(ちてん)に、ヴァイオリンの村を建設、永久にヴァイオリンの産地として之を遺すべく遠大なる計畫(けいかく)が立てられ、遠からず實現(じつげん)する筈である。
(後略)

 長男の梅雄さんは、大府のなだらかな丘陵地に点在する農家を見て、ドイツと同じようなパーツ作りの村を作り、そこでヴァイオリンに仕上げることで、機械加工の量産品ではなく、手工による安価なヴァイオリンが作れるのではないか。つまりは大府に「楽器生産の村・マルクノイキルヘン」を作る夢を描いたようです。今回のために作成されたパンフレットでは、そのあたりにも言及され、結果的には、戦争の悪化に伴い、昭和19年の楽器製造禁止と同年の政吉さん死去に伴い、工場の敷地は、三菱重工業名古屋航空機製作所に買収されたことが書かれていました。今回の展示企画は、昭和の一時期のみの幻となったヴァイオリンの里、大府に光を当てた好企画と言えます。現在、その土地にはお寿司屋さんのビルが建ち、その南には女子レスリングなどで有名な至学館大学の広大な敷地がありました。

 また、大府市生まれの竹澤恭子さんなど、スズキ・メソード出身の世界的ヴァイオリニストをはじめ、様々な世界で活躍されるOB・OGのみなさんを一同に紹介されたコーナーでは、観覧者たちも大きな興味を抱きながら、見学されていました。
→展示会パンフレットをダウンロードする

記念講演会「アインシュタインと音楽」

 11月12日(日)午後には、アインシュタインと鈴木政吉が交流していた時代を中心に、音楽とアインシュタインとの関係を含めて、アインシュタインの業績をわかりやすくお話いただく記念講演会がありました。講師は、名古屋大学大学院理学研究科の杉山直(なおし)教授。アインシュタインがヴァイオリン演奏の名手であったことは知られていますが、杉山先生ご自身もフルートを演奏されるそうで、お話の中でも「音楽と理系の学問」の関係性についても言及されていました。杉山先生によれば、「新しい発見ができる理系研究者には、あるところで発想の転換がある。この転換こそ、音楽や芸術と関係するのではないか」という視点が紹介されました。

 杉山先生は、特許局の技師であったアインシュタインが「奇跡の年」と言われる1905年に、一人で3つの功績を残した内容などを説明されながら、後年の物理学者たちがその功績を追いかけている様子なども紹介。あらためて、アインシュタイン博士のすごさを思い知らされました。

 また、アインシュタインがモーツァルトを敬愛し、バッハやベートーヴェンの作品を好んでいたことも紹介され、鈴木鎮一先生がベルリンのサロンでアインシュタイン博士らと交流していた時の様子を彷彿とさせる内容でした。アインシュタイン自ら愛器LINAを奏で、「私の人生のほとんどの喜びは、私のヴァイオリンからもたらされた」と述懐しているとのこと。等身大のアインシュタインを垣間見た思いがしました。

2018年1月には、レクチャーコンサート「鈴木政吉と大府市」を開催

 引き続き、大府市歴史民俗資料館での展示は2018年1月21日(日)まで開催されています。また、レクチャーコンサートが、下記の内容で1月20日(土)に別会場で開催されます。

2018年1月20日(土)14:00〜
おおぶ文化交流の杜アローブこもれびホール →地図 
定員:300人
料金:全席指定 500円

出演:井上さつき(レクチャー)、桐山建志(ヴァイオリン)、江川智沙穂(ピアノ)
問い合わせ:大府市文化振興課 tel.0562-45-6266