スズキ・メソードと脳  新時代の幕開け

会長 早野龍五

 
 皆さま、あけましておめでとうございます。
 

 もうじき2年になろうとするコロナ禍中ではありますが、とても嬉しいことがありました。本会と東京大学の酒井邦嘉先生との「音楽と脳」の共同研究の最初の成果が、英国の「Cerebral Cortex(大脳皮質)」という学術誌に掲載されたのです。今月のマンスリースズキに解説記事が掲載されていますので、ぜひお読みください。
 
 酒井先生は「言語の脳科学(中公新書:毎日出版文化賞受賞)」などで知られ、磁気共鳴機能画像法(fMRI)を用いて、脳の高次機能を明らかにする研究をしておられます。機関誌に連載中の「脳と才能」で、皆様もご存じかと思います。
 
 酒井先生は東大物理のご出身で私の後輩にあたるのですが、先生が2005年に東大で「脳の高次機能を物理で見る」という講演をされた時から、私は、先生の斬新な研究テーマと手法に注目していました。酒井先生が本部事務局に「スズキと共同研究は可能でしょうか」と問い合わせをなさったことがきっかけとなり、理事会の決議を経て、5年前に共同研究がスタートしました 。
 
 今回の研究は、スズキ・メソードがどのように優れているかを脳科学から解明することを目指し、音程・テンポ・強弱・表現(アーティキュレーション)のいずれかに誤りのある音源を聴きながら、その時の脳の活動をMRIで可視化するという方法で行なわれました。スズキのヴァイオリン科の生徒さん、幼少時から(スズキ以外の)音楽経験がある東大附属中高の生徒さん、音楽経験のない東大附属中高の生徒さん、いずれも平均年齢15歳の約30名ずつにご協力をいただきました。
 
 研究の結果については、解説記事をお読みいただきたいと思います。
 
 今回の研究は、スズキ・メソードで子どもがどのように育つのか、何が優れているのかを科学的に解明する最初の一歩です。昨年来のコロナ禍で開始が遅れていたのですが、最近、東 誠三先生およびピアノ科の生徒さんのご協力を得て、和音楽器の場合に脳はどのように働くのか、聴いて覚えるのと読譜とではどんな違いが出るかなどについての研究がスタートしました。結果が出るのはしばらく先になるかとは思いますが、楽しみにお待ちください。
 
 嬉しかったので、共同研究のことだけで紙幅が尽きてしまいました。コロナが収束し、夏期学校やグランドコンサートなど、皆が楽しみにしている恒例の行事を行なえるようになる日が早く来ますように。