愛知県大府市の愛三文化会館で、2021年12月12日(日)に
「鈴木政吉生誕祭」が開催されました! 

 

 鈴木バイオリン製造株式会社が、名古屋市から大府市に移転して以来、何かと話題の多い大府市。今回、初めて開催されたのが鈴木鎮一先生の父、鈴木政吉の誕生日、12月11日に合わせて開催の「鈴木政吉生誕祭」。その内容を、この日の企画立案とともにカルテット演奏で第2ヴァイオリンを担当された小野田祐真様(鈴木バイオリン取締役)に、レポートしていただきました。

 

今後もこの時期に「鈴木政吉生誕祭」を開催します!

開場前から大変な人気でした

 1859年12月11日に鈴木政吉は生まれました。よってこの日の直近の日曜日を愛知県大府市では「鈴木バイオリンの日」とすべく、今回は第1回目として生誕祭を催しました。依然コロナ渦の状況ではありましたが、鈴木バイオリン製造の本社が大府市に移転した“移転元年”の年に催行できたことで、非常に話題にもなり、皆さんにも知っていただける良い機会になったと思います。
 

廣江安彦様による講演
「バイオリン王鈴木政吉が住んだ大府の地」

 鈴木バイオリン製造の本社移転に際して、大府市と鈴木バイオリンの縁についての本を執筆していただいた廣江安彦様を講演者として、第1回目のゲストにお呼びさせていただきました。戦争に使用する武器のために金属類が市民からも徴収される中で、鈴木政吉の銅像が奇跡的に生き残ったエピソードなども詳しく紹介いただきました。特に当時の鈴木バイオリン大府分工場が戦争による軍需産業に翻弄される形で、三菱重工に買収され岐阜県恵那市へ工場・従業員ごと疎開したというエピソードは、来場いただいた方皆さん、聞き入っていました。

 前半は講演会、そして休憩を挟んで後半はミニコンサートで弦楽四重奏の演奏を披露しました。親子連れも多くクリスマスにちなんで演奏した「くるみ割り人形」などで楽しんでいただけたほか、ハイドンの「皇帝」などクラシックの曲も演奏し、クラシック音楽を身近に楽しみながら味わえたのではないかと思います。

 

人気を呼んだ試奏コーナー

 また、ホールの隣スペースで同日に開催した楽器の展示室も大変好評でした。ここでは鈴木バイオリン製造が所有する貴重資料や写真のほか、バイオリンを断面に切断した模型なども展示し、楽器の音が鳴る仕組みを鈴木バイオリンの職人自らがレクチャーしました。展示スペース内に実際のバイオリンの試奏コーナーも設け皆さんが楽器に触れあっていただき、音楽の楽しさや音色の美しさを堪能いただきました。

 初回開催となる今回の「生誕祭」は多くのお客様にお越しいただき、アンケートでも、とても好評でした。毎年政吉生誕の日である12月11日の直近日曜日を「鈴木バイオリンの日」として周知・定着化させるべく、2022年は12月11日(日)に第2回を開催する予定です。
 
 コロナ渦が終わることを願い、次回はよりキャパの大きなホールでの開催を企画しております。ゲストは未定ですが、普段音楽に触れない方にも音楽や楽器を身近に楽しんでもらえるような企画を考えていく次第です。
 

カルテットに参加されたスズキ・メソード指導者からのメッセージ

 第1ヴァイオリン  伊藤達哉先生(東海地区ヴァイオリン科指導者)

左から伊藤達哉先生、小野田祐真取締役、
廣岡直城先生、野田豊子先生

 幼少の頃バイオリンを学んだ方には馴染みのある鈴木バイオリン製の分数楽器。私もタカタカタッタに始まり、体の成長とともにサイズが変わり、フルサイズになるまでお世話になりました。
 鈴木政吉氏がバイオリン製造の一大生産地を築き、晩年には楽器研究で余生を送ったこの大府で行なわれた「生誕祭」にて、記念演奏に携わることができ、幼少の頃にお世話になった恩返しが少しできたかなと思います。
 演奏曲目にはハイドンの弦楽四重奏第77番「皇帝」を選び、現在のドイツ国歌となっている第2楽章では、政吉氏が楽器製造都市の参考にしたマルクノイキルヘンや鈴木鎮一先生の留学先に思いを馳せながら演奏しました。
 当日講演された廣江安彦さんの鈴木バイオリンの歴史と大府の歴史を紐付け、詳細に記した著書を拝読し、大府の地の現在までの発展と鈴木政吉の人柄についてより深く知ることができました。
 また、政吉氏の手による作品や資料など貴重な展示も数多くあり、晩年に記した楽器製作の記録は、文字一つひとつに想いが込められており、バイオリン製作に大変な熱意を持って取り組んできたことが窺える印象でした。
 このような歴史を経て、また新たにスタートした鈴木バイオリンの発展とともに、スズキ・メソードで学ぶ子どもたちが音楽を通して立派に育ち、社会に貢献していくことを願っています。
 
ヴィオラ 野田豊子先生(東海地区ヴァイオリン科指導者) 
 スズキ・メソード創始者鈴木鎮一の父である、鈴木政吉氏の生誕祭に「ミニ・コンサート」で演奏をさせていただきました。中でも、ハイドンの「皇帝」第2楽章はドイツ国歌となっていますので、演奏していて、感慨深く、様々な思いを巡らせました。
 鈴木鎮一先生も兄の梅雄氏とともに、政吉氏の自作バイオリンを持って渡独し、アインシュタイン博士に高評価を貰っています。鎮一先生もベルリンに留学され、豊田耕兒先生も長くベルリン芸術大学で教鞭をされていました。
 私事で恐縮ですが、ベルリンで鈴木鎮一先生も参加された世界大会があったり、ドイツ演奏旅行で引率したことなどがあり、思い出深い国です。
 講演をされました廣江安彦氏は、鈴木政吉氏のみならず、鎮一先生のこともよく研究されていて、松本市の鈴木鎮一記念館へも出向き、研究されました。
 また、展示コーナーや楽器体験コーナーもあり、興味のある方で賑わいました。鈴木政吉第1号のバイオリンは、以前も拝見させていただいていますが、今回初めて自筆で、どのようにバイオリンが作られているか、何の木を使っているか、寸法などがこと細かに、しかも達筆で書かれている書物を見せていただきました。バイオリンに魅せられて何とか自分でも作りたい、試行錯誤し、苦労と情熱で次々と自作された12年後のバイオリンは見事に変化していました。
 写真も何枚か見せていただきました。鈴木鎮一先生が学生服で写っている写真を発見!もしかしてこの頃に、「愛に生きる」に書かれているエルマンの「アベ・マリア」に感動された頃かも知れません。
 子どもたちから大人まで使っているバイオリンは、鈴木政吉氏から長男の梅雄氏に受け継がれて、今日まで、どれぐらいの人たちが学んだり、楽しんだりしたのか計り知れません。歴史を知り、それを受け継ぐ大切さを認識する1日となりました。
 
チェロ 廣岡直城先生(東海地区チェロ科指導者)
 15年前に大府市で故久保田顕先生が始められたチェロ教室を、私が引き継いでから9年がたちます。その昔、大府の地に鈴木バイオリンの工場があったとは聞いていましたが、再びこの地に戻ってこられたということで、この地に教室を構えている者としてとてもうれしく思います。
 お聞きしてみれば、今までも大府市にはスズキ・メソードのベテランの先生方が教室を構えていらっしゃったそうですし、スズキで学んだ大府市出身の演奏家も、竹澤恭子先生をはじめ水野紗希さんやチェロの佐藤桂菜さんといった方々がいらっしゃいます。
 鈴木政吉氏が始めた鈴木バイオリンにも、そのご子息である鈴木鎮一先生の始めたスズキ・メソードにも縁の深いこの地で指導に携われるということは喜びであり、身の引き締まる思いでもあります。 
 今回、廣江さんの講演と「鈴木政吉ゆかりの品」の展示でその歴史に触れることができ、改めて勉強させていただきました。今後、鈴木バイオリンとスズキ・メソードの充実と発展に力を尽くせればと、思いを新たにして、がんばっていきたいと思います。