豊田耕兒先生マスタークラスコンサートを終えて

 
 4月30日(土)、豊田耕兒先生によるマスタークラスコンサートが、東京で開催されました。たくさんの生徒さんを育てているヴァイオリン科の指導者たちが、自らを鼓舞し、研鑽を重ねた成果を発表しました。

 2020年春のコロナ禍から、松本で行なわれていたマスタークラスを県外から受講することができなくなりました。その年の秋、豊田耕兒先生は東京に転居されました。これに伴い、長年松本で行なわれてきたマスタークラスを東京で行なうこととなりました。
 レッスンを続ける中で、先生は「勉強するからにはコンサートで演奏することを目標に」とのお考えを示され、今回のコンサートが実現する運びとなり、蔓延防止等重点措置に伴って、2月から4月に延期して開催いたしました。
 このような状況の中、豊田先生は変わらずに私たちと向き合ってくださり、音楽を惜しみなく分け与えてくださることに、一同感謝の気持ちでいっぱいです。
 4曲演奏してくださった豊田元子先生をはじめとするピアニストの方々、当日お手伝いの先生方にも多大なるご協力をいただいて無事開催できましたこと、関係者各位とご来場くださった皆様に心より御礼申し上げます。
 
日程:2022年4月30日(土)開演14:00
会場:国立オリンピック記念青少年総合センター小ホール(東京)
入場無料(事前登録制)
 


 
 以下、各出演者から今回のコンサート出演への思いを寄せていただきましたので、出演順に掲載します。
 
①ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61より第1楽章 
  星めぐみ(ヴァイオリン / 関東地区ヴァイオリン科指導者)
  豊田元子(ピアノ)
 

 豊田耕兒先生、元子先生、開催にあたりお世話になった方々、聴きにきてくださった方々へ心よりお礼申し上げます。
 ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の勉強を始める際、豊田耕兒先生はこの曲について、「稀にみる素晴らしい曲だけれど、相当な忍耐が必要だ」とおっしゃいました。先生は16歳の時にこの曲でデビューされたそうです(1949年クロイツァー指揮、日響定期演奏会 於日比谷公会堂)。
 登っても登っても頂上が見えないような思いでしたが、なかなか前に進まない私を先生は常に励ましながら導いてくださいました。豊田元子先生とご一緒できたことも大変贅沢で、まるでオーケストラがそこにいるかのようでした。
 この大曲に挑戦し、ホールで演奏するという機会をいただけて大変幸せな1年間でした。
 また、コンサートへの道のりで、応援し助けてくださる周囲の先生方や生徒さんたち、仲間のありがたさも改めて強く感じました。今回いただいたたくさんのものを指導に活かし、今後も学び続けたいです。


 
②シューベルト :ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調 D.547 Op. 162より第1、3、4楽章 
  小西麻紀子(ヴァイオリン / 関東地区ヴァイオリン科指導者) 
  豊田元子(ピアノ)
 

 豊田先生が松本から東京に拠点を移され、今後マスタークラスは東京で開催されると聞いた時は、大変嬉しく、とても興奮しました。けれど、私はまだまだ子育て真っ最中の身であり、なかなか思うように練習できませんが、それでも今を逃したくないと思い、飛び込ませていただきました。
 今回演奏させていただいたシューベルトのソナタを勉強する前に、まだ勉強していないシューベルトのソナチネ2曲を豊田先生にご指導いただきました。
 20年程前に豊田先生にソナチネを1曲ご指導いただいていましたが、その頃とは自分が感じるシューベルトの音楽が変わり、この歳になってシューベルトにすっかり魅せられ、ソナチネ3曲終了後はこのソナタへの想いがありました。
 このソナタの最初のレッスンで、豊田先生が「ベルギーでの演奏会でグリュミオ先生の演奏を初めて聴いたのがこのソナタで、聴いた時は体が動かなくなるくらい感激して、すぐに『弟子にしてほしい』と楽屋まで頼みにいったらグリュミオ先生の奥様に「ダメダメ」と断られた。後にしばらくしてお電話があり、OKをいただき、毎回レッスンのたびにグリュミオ先生の奥様が車で駅まで迎えに来てくださった」というエピソードをお話ししてくださいました。それまで私もグリュミオ先生のシューベルトのソナタの演奏CDを聴いて勉強していたこともあり、そのお話を伺い、非常に感動しました。
 豊田先生からはグリュミオ先生の素晴らしさ、そしてシューベルトの音楽の素晴らしさを教えていただき、毎回至福のレッスンでした。
 そのようなシューベルトへの募る想いとは裏腹に、なかなか手が思うところにいかない現実がとてももどかしかったですが、豊田元子先生の素晴らしいピアノと一緒に演奏させていただき、本当に幸せでした。
 毎回温かいお言葉とともにレッスンしてくださる豊田先生、「私たち気が合うわね」と毎回レッスンでピアノを弾いてくださった元子先生、マスタークラス受講の同志の先生方、コンサート開催に携わってくださったすべての方に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。


 
③シマノフスキ:ノクターンとタランテラ Op.28
  守田マヤ(ヴァイオリン / 関東地区ヴァイオリン科指導者)
  及川夕美(ピアノ)
 

 今回のマスタークラスコンサート出演のお誘いをありがたくも去年の暮れ頃にいただき、ここ数年出産、子育てとレッスンでろくに弾いていなかった自分に喝を入れるために参加を決意しました。
 シマノフスキの「ノクターンとタランテラ」は、弾こうと思って楽譜を入手してから何年も経過し、このままでは一生弾かないままで終わってしまうと取り組んでみたもので、予想通り手が悲鳴を上げるような有様でした。ところが、このようなヴィルトゥオーゾ作品に対する豊田先生の豊富なアイディアは、知らずに設けていた私の狭い視野を広げてくださるきっかけとなり、改めて先生の芸術の一端に触れさせていただいた思いです。
 奮闘する私たちへの眼差しはどこまでも暖かく、惜しみなくサポートしてくださった豊田先生、元子先生、大変な曲を引き受けてくださったピアニストの及川夕美さん、ご自分の出番があるにも関わらず前半譜めくりをしてくださった石川咲子先生、お忙しい中、当日お手伝いしてくださった先生方、ご来場くださった皆様、そして出演者でありながら準備に時間も労力も注いでくださった先生方、本当にありがとうございました。
 これからも何とか時間を見つけて、マスタークラスに参加させていただきたいと思っております。
 豊田先生、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
 最後に余談です。シマノフスキはポーランド人ですが、ウクライナのキーウ(キエフ)出身です。やはりこの時代から国家の動乱に巻き込まれていた独特の暗さに豊かさが隠れているような作曲家の作品を、このご時世に弾くことの意味を、この上なく考えさせられました。


 
④バルトーク:無伴奏ヴァイオリンソナタ Sz.117より第3、4楽章  
  野口美緒(ヴァイオリン / 関東地区ヴァイオリン科指導者) 
 

 今回出演させていただくにあたり、多くの方から「バルトーク弾くの?!?」と聞かれました。一番驚いていたのは自分自身かもしれません。
 かつて、豊田先生がメニューインの演奏に感動され、ご自分も録音された曲。先生がおっしゃる「素晴らしい音楽」を体験してみたい、最初はそんな軽い気持ちでレッスンを受け始めました(そしてまったく歯が立たず)。先生の音楽的なアドバイスに接するうちに曲の魅力にどんどん吸い寄せられていきました。「音楽とはなんぞや」という根源的なものが見え隠れしました。
 それを一部とはいえコンサートで弾く、というのは青天の霹靂でしたが・・このコンサートで先生は、お客様に様々な種類の音楽を聴いていただきたいとお考えなのではと感じました。7人で、これだけの時代や様式をお届けする、その構想の奥深さにも心打たれました。
 レッスンでいただくアドバイスの多くは、自分が日々、生徒さんにレッスンで言っていることだったりもします。音のこと、1指2弓3発車、呼吸、変化…音楽の要求に沿って、楽器を信頼して。
 私自身ができていないことが生徒さんにも影響する、その重みに毎回気付かされます。子どもたちと比べると、自分はなかなか変われず、もどかしさもあります。急がず休まず(実際は休み休み?)あきらめずにいきたいです。

 曲が弾けない!と余裕をなくして曲ばかり練習すると音が悪くなる、そんな事態にもなり、苦笑するばかりでした。音のお稽古、復習の大切さがよくわかります。そして逆さ弓はバルトークにも効きます(当社比です)。
 今回、2月を目指して準備していた曲を4月まで練習することになり、皆さんが「弾けるようになってからどんどん音楽的に」なっていくのを目の当たりにしました。準備が遅れていた私は、なかなかそうもいかなかったものの、音符を並べたその先にどんな世界があるのか、貴重な体験となりました。鈴木鎮一先生もおっしゃっていたことを生徒さんたちにお届けしなくては…!
 そして、ステージではレッスンを超える緊張で弓が自分から切り離されたかのように感じます。豊田先生にそのお話をした時には「どうして緊張するの?音楽のことに集中すればいい」とのこと。邪念が多くてなかなかできず、精神修養が必要そうです。あたたかく見守ってくださったお客様に救われます。子どもたちがステージで生き生きと弾く様子に、改めて尊敬の念を抱きます。
 豊田先生にこのような世界に導いていただき、感謝でいっぱいです。米寿になられた豊田先生は、時にはヴァイオリンとヴィオラの両方をお持ちになって地下鉄に乗られ、レッスン会場にいらっしゃいます。こちらもぼやぼやしてはいけないという気持ちになります。
 素晴らしい共演者の皆様のレッスン見学からも得られる気づきの多さ、「仲間」(大先輩も含め)の存在でどれだけ引き上げていただき、意欲を注入していただけるかも体感しています。
 当日お手伝いくださった先生方の、スズキのあたたかい精神性にも感動しました。これら全てを生徒さんたちと共有できるように歩みたいです。皆様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。


 
⑤ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番ト短調ニ長調Op.26 より第2、3楽章
  大久保雅子(ヴァイオリン / 東海地区ヴァイオリン科生徒)
  石川咲子(ピアノ / 関東地区ピアノ科指導者)
 

 元子先生のお声掛けと耕兒先生の温かいご指導のお陰で、今回、このような貴重な経験をさせていただくことができましたこと、心より感謝申し上げます。ピアノ伴奏をしてくださった石川先生、私の参加を温かく受け入れてくださった先生方にも感謝申し上げます。また、お手伝いに来てくださった先生方の優しさに触れ、とても幸せな気持ちになりました。本当にありがとうございました。
  ブルッフの2楽章は施律がとても美しく、3楽章は情熱的で、まだまだ改善の余地は大いにありますが、このような曲を演奏する機会に恵まれたことをとても嬉しく思います。
 ・ここは夢の中にいるように、
 ・ここは夢から少し醒めて、
 ・このフレーズはdimせず最後までしっかり弾いて、
 ・ここは精一杯思いきり遠慮なく弾いて、
 ・ここのdecresc.は次のフレーズに続くようにあまり音量を落とさず、
 ・この音型は基調になるこれらの音が浮き出るように、
 ・ここはG線を深く響かせて、
 ・ここは突然音色を変えて、
 ・このパッセージは最後の音をしっかり響かせて、
 ・このフレーズの区切りは息を吸って、
 ・このパッセージは一つひとつの音をはっきりとクリアに大切に、
 ・このフレーズは最後の音にしっかりとヴィヴラートを、
 ・ここは突然別世界に、
 ・このフレーズはこれらの音をテヌートがかかるくらいに大切に
などなど、たくさんの貴重なアドバイスをいただきましたが、3楽章の勉強の時に、どんなに速いパッセージでもしっかりテンポ通りに、しかし常に音楽を楽しみ、美しく歌うように、と言われたことが(当たり前のことかも知れませんが)、印象的でした。


 
⑥ブラームス:ヴァイオリンソナタ 第1番「雨の歌」ト長調 Op.78より第2、3楽章
  守田千惠子(ヴァイオリン / 関東地区ヴァイオリン科指導者)
  豊田元子(ピアノ)
 

 今回のコンサートで、私はブラームスのソナタ第1番「雨の歌」2,3楽章を演奏しました。1年余り、バッハの無伴奏を見ていただいていましたが、コンサート企画のお話が出たときに、たまたまバッハと並行してブラームスも見ていただいていて、豊田先生からのお勧めで、この曲を選びました。
 私が、豊田先生のレッスンを受けたい‥と思った動機をお話しします。2020年の秋から、東京に移られた豊田耕兒先生のレッスンが始まりました。ちょうどその少し前に豊田耕兒先生が編纂された「バッハの無伴奏ソナタ・パルティータ全集」(全音楽譜出版社)が発刊されました。私はすぐ購入し、中を拝見した途端、この全曲を、ぜひまた勉強してみたくなり、豊田先生のレッスンを申し込みました。それから毎月1回受けるレッスンは、驚きと戸惑いの連続です。先生から学ぶバッハの奏法や解釈は本当に素晴らしく、昔、学生の時に一通り学んだバッハとは別な曲に感じます。今、無伴奏ソナタ第1番に取り組んでいます。バッハを弾くことは本当に難しいですが、とても楽しいです。豊田先生からの教えを宝として、日々がんばって行きたいと思います。


 
⑦ラヴェル:ツィガーヌ 
  大井真智子(ヴァイオリン / 関東地区ヴァイオリン科指導者)
  豊田元子(ピアノ)
 

 今回の課題曲『ラベル ツィガーヌ』は丁度5年前にも、耕兒先生のマスタークラスでお教えいただいた曲でした。それなりにがんばってこの曲に取り組んだつもりでしたが、私には難易度が高過ぎて、上手くいかない部分が多くありました。5年経ち、より良い演奏を目指して再度がんばりたいと思い、この曲に取り組みました。
 自分の中での目標は3つありました。
①潰れた音ではなく、響いた音で奏でる
②ハーモニックスとピチカートのテクニックを向上させる
③ピアノとのハーモニーを楽しむ
 ①は5年前の自分の演奏と比較しますと、少し成長できているような気がします。「十分」と言える域に達することができるよう、さらに研究していきたいと思います。
 ②は、耕兒先生がご親切にお教えくださったお陰で、大分音量が出るようになったと思います。残念ながら、正確さにはまだ欠けているので、日々の練習で克服していきたいと思います。
 ③は元子先生の極上の素敵なピアノの音色とご一緒させていただけて、レッスンの時から本当に幸せでした。
 マスタークラス・コンサートの公演日がコロナによって延期になったため、このコンサートと自分のクラス発表会が『連日』というようなタイトなスケジュールになってしまい、本番を無事迎えられるか非常に不安でした。本番前の数週間は睡眠時間が確保できませんでしたが、周囲の方に温かくサポートしていただいて、なんとか乗り越えることができました。野口先生をはじめ、いつもマスタークラスでご一緒させていただいている先生方、当日お手伝いくださったスタッフの皆様、応援の拍手をたくさんくださった皆様、心から御礼申し上げます。
 成長カーブがあまりにも緩やかな私にも、耕兒先生は忍耐をもって、音楽のエッセンスをたくさんお教えくださいます。私はいつも申し訳ない気持ちでいっぱいです。先生からいただいているものをいつの日か音にできるよう、これからも日々精進してまいります。