ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集の第1弾となるCDをリリース

 

録音:2021 年10 月18 日~21 日/軽井沢大賀ホール(長野)
カメラータ CMCD-28383 価格:3,080 円(税込)

 11月25日(金)、大手デベロッパーに勤務する、ピアノ科出身の森 泰子さんが、ウィーンフィルやウィーン国立歌劇場などで活躍するヴァイオリンのヴィルフリート・和樹・へーデンボルクさんと「ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全集」の第1弾をリリースされました。

 ウィーンフィルの来日公演時に共通の知人を介して知り合ったお二人。森 泰子さんの音楽に対する姿勢や思いに触れ、かつて機関誌にも掲載された手記を和樹・へーデンボルクさんが読まれることで、共演者としてオファーされた相手が森 泰子さんでした。
 
 CDの発売に先立って紀尾井町サロンホールで開催されたお二人のコンサートでは、CDにも収録されているベートーヴェンのスプリングソナタや第10番などを演奏。フレッシュな二人にふさわしいトークと深い洞察に満ちた演奏で、満席の聴衆を魅了しました。しかも、森 泰子さんは、これだけの曲目の上に、アンコール曲として演奏されたモンティの「チャルダッシュ」、さらにはサン=サーンスの「白鳥」まで、すべてを暗譜で弾き切り、大きな驚きを与えました。
 
 その森 泰子さんから、特別にマンスリースズキの読者の皆様にメッセージをいただきましたので、ご紹介しましょう。


 

音楽はどんなに追求しても終わりがない、だからこそ楽しい! 
文・森 泰子

 
 今回、11月25日に、ウィーンフィルの第一ヴァイオリニストのヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルクさんと、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタのCDをリリースいたしました。
 
 私自身は、普段はデベロッパーで街づくりの仕事をする傍ら、ピアノの演奏活動を続けています。今回、CD制作は初めての経験となりました。
 
 ヴァイオリニストの和樹・ヘーデンボルクさんとは、2018年に、サントリーホールでのウィーンフィル来日公演の後に、共通の知人を通して知り合いました。
 

 その際に、私がスズキ・メソードでピアノを学んだ話や、ずっと音楽を楽しんで続けてきたこと、そして以前、同じスズキ出身の人とヴァイオリンとピアノのデュオをしたことがあるという話をしたところ、「何か弾いている動画などがあったら見せて」と言われ、スプリングソナタを弾いている動画を見せたことが共演のきっかけとなりました。その動画を見て、「いいね、この曲を来年来日したときに一緒に弾こう」と言われ、2019年に小さなチャリティコンサートなどを複数回一緒に開催するうちに、このCDの話が生まれました。

 2019年末にベートーヴェンのヴァイオリンソナタのCD制作プロジェクトが立ち上がってから、リリースまでのこの3年間、いろいろな出来事や変化がありました。
 
 コロナ禍を経て、様々な制約の中で生活をするという初めての経験をしました。自分の将来やりたいことに向けて転職をして、仕事も一層忙しくなりました。渡航制限により、当初レコーディングをする予定だった時期から1年も遅れての収録となり、もどかしい思いをしたことや、諦めそうになることもたくさんありました。
…いろいろな想いや経験のこもったCDがやっとでき上がり、私自身、とても感慨深いです。
 
 そして、それらを経た上で演奏された今回の音楽には、ベートーヴェンという偉大な作曲家が作り上げた世界の中に、きっと「今を生きる私たちのこの小さな経験も、少しの彩りとなって加わっているのではないか」と思います。
 
 CDに収録した曲は、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第4番、5番、10番です。
 
 ベートーヴェンのヴァイオリンソナタは、5番のスプリングソナタと9番のクロイツェル、そして7番や8番などが演奏会で好んで演奏されるため、それらの曲に比べると4番や10番はあまり耳にする機会が多くないかもしれません。
 
 私自身、1枚目となるCDには、耳慣れた曲や、ポピュラーなピースを収録したいという思いも正直ありました。けれど、5番のスプリングソナタを収録するならば、ベートーヴェンが5番とセットで作曲した4番も一緒に、そして、ベートーヴェンの作曲の流れを崩さないためにといろいろ考えて10番を選び、取り組むことにしました。
 
 特に、ベートーヴェンの後期に差し掛かるタイミングで書かれた、それまでのヴァイオリンソナタとはまた毛色が違う10番に取り組むことで、改めて作曲家へのリスペクト、自分自身の音楽への理解が深まることに繋がった気がしています。
 
 作曲家に敬意を払い、ストーリーを大切にするその姿勢は、もちろん曲の解釈や演奏にも表れます。作曲家が表現したかったことそのものを、余計な色や主張を加えすぎずに、フレッシュに、透明感をもってクリアに表現することを、制作会社であるカメラータ・トウキョウのプロデューサーから教えていただきました。
 
 演奏会は、その場でのお客様、自分の状態、デュオであれば相手の状態、いろいろな要素や環境が複雑に絡み合って、その場でしか生まれない何かがある、一期一会のものです。
 
 翻ってレコーディングは、いろいろな要素をできるだけ固定した中で、ひたすら自分自身、曲、作曲家と向き合って、追求を重ねていく作業です。
 
 プロデューサーやエンジニア、そしてヴァイオリニストの和樹・ヘーデンボルクさんと一緒に追求できたことは、得難い経験となりました。
 
 今回のCDは、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ全集の1枚目となります。これからも自分自身の人生経験や幅を広げながら、2枚目以降のCDにも真摯に取り組んでいけたらと思っています。
 
 音楽はどんなに追求しても終わりがない、だからこそ楽しい!そう思っています。