3月24日(火)、都内のスタジオで音源作り。
指導曲集などから4曲をピックアップ。さまざまな場面を想定し、録音データを制作しました。

 共同研究の内容については、1月31日の「毎日メディアカフェ」で、東京大学の酒井邦嘉先生に早野会長が質問でお尋ねする対談形式のセミナーを、マンスリースズキ2月号でご紹介しました。詳しくは、そちらをご覧ください。

楽譜の確認を丹念に行ないました 今回、ピッツバーグ在住の宮前丈明先生の来日に合わせて、共同研究の基礎資料となる音源づくりを都内のスタジオで行ないました。あらかじめ、酒井先生との打ち合わせで、指導曲集などから4曲をピックアップ。その一つひとつについて、音の高さ、音の速さ、音の強弱、アーティキュレーションなどのカテゴリーで「変化」を与えた楽譜を録音。実に80種類以上の録音データを一気に収録したことになります。

 世界でまだ取り組まれていない分野の研究だけに、詳細をお知らせすることはできませんが、今後の展開に期待をつなぐ第一歩となったことは間違いありません。

宮前先生のフルート楽器学酒井先生の「絵本」〜ことばの冒険、こころの冒険などの説明を受ける宮前先生 酒井先生は、ヴァイオリンのみならず、フルートも演奏されるとあって、初対面の宮前先生のフルート談義にも興味津々だったご様子。院生の多田颯さんもヴァイオリンを学ばれており、学部生の大芝芳明さんも合唱団で活躍してこられたとあって、音楽を愛好する者同士の絆も生まれたようです。

■宮前先生のお話
 私自身が、人間を対象とする脳研究に携わったことが皆無でしたので、こうして参加できたことは大変光栄に思っています。通常の録音とは、まったく違いましたが、楽しい体験でしたね。貴重なプロジェクトのスタートに参加できたことは、嬉しいですね。これからも進捗状況を伺いたいですし、デザインの修正などもあると思いますので、私も加わっていけるといいですね。

■酒井先生のお話
 「何が音楽か」という問題は深くて難しい問題です。どんな風に音楽を切り取っても、「それが音楽なのか」と聞かれるくらい、音楽を研究することは難しいことです。それは、どこかに主観を伴うものであることが影響しています。科学の場合は、それが客観的にある程度シェアされて成立することがあります。それを追求すると音楽ではない、ということが常にあります。無謀なことを始めたようですが、決して最大公約数的なところを見たいのではなく、素晴らしい音楽を聴いた時に誰もが感動するように、また演奏家もそれを目指して音楽に取り組んでいるのですから、そうした普遍性を明らかにするようなサイエンスのあり方なら、研究する意義があるでしょう。その意味で、宮前先生が演奏を通して参加してくださったことは、本当に光栄です。MRIを使っての分析だけではなく、「音楽とは何か」を一緒に考えながらコラボレーションできることに意味があります。今日は第一歩ですが、これまで準備してきたことを実現できたことが、素直に嬉しいですね。

酒井邦嘉先生(東京大学大学院総合文化研究科教授)からのメッセージ
音楽の脳科学 ~才能教育研究会との共同研究開始に寄せて~


酒井邦嘉先生 今年1月より、才能教育研究会との共同研究が始まりました。脳がどのように音楽を生みだすかを明らかにするための本格的な科学研究を目指しています。

 鈴木鎮一先生は、「母語教育法」を理想として全人教育を目指されました。これまで私は言語脳科学の研究を通して、すべての言語に共通する法則を探し求めてきましたので、母語を理想とすることの大切さがよくわかります。言葉を使って物事を考えることは、人間としての本能なのです。音楽も、言語と同じような目に見えない仕組みに支えられていて、いわば「音楽の普遍文法」に基づいていると考えています。そのことが明らかになれば、人間だけに備わる創造性のメカニズムに迫れることでしょう。

 この共同プロジェクトは、広くそしてとても深い問題に向かっています。1月末に行なわれた毎日メディアカフェでは、早野龍五会長から質問をいただきながら、共同研究の目指すところについて来場された皆さんと共有することができました。

 3月24日には、フルートの演奏家であり脳神経科学の研究者でもいらっしゃる宮前丈明先生に、初めてお目にかかりました。実験についてのアイディアの交換から、音源の録音にもご協力いただいて、新たなコラボレーションの第一歩となりました。

 私たちが実験で使うMRI装置自体は病院にあるのと同じですが、脳の構造だけでなく活動までも画像にすることができます。大きな磁石の中でラジオと同じ周波数の弱い電波をあてるだけなので、安全にそして繰り返し精度良く調べられるのです。

 これまで私は、基本的な視覚や聴覚の機能から始まって、中高生が英語を習っているときの脳活動などを25年にわたって調べてきました。その経験が、「音楽の脳科学」という未知の分野にも役立つと思います。才能教育研究会の生徒さんにとっても、スズキ・メソードで学び、音楽を通して成長することで、脳がどのように育つのか、そのメカニズムがわかることは有効なことではないかと考えます。これから説明会や報告会などを通して、皆さま方とお話しできることをとても楽しみにしています。