印田千裕さんと陽介さんの「対話」が楽しみです 11月11日(金)、銀座王子ホールで、本回出身のヴァイオリニスト、印田千裕さんと、同じく本会出身チェリストの印田陽介さんの姉弟による第5回デュオリサイタルが行なわれます。ヴァイオリンとチェロのデュオへのこだわりは、相当なもの。そこで、印田千裕さんにお話を伺いました。これまでの演奏曲もすべて紹介します。

2012年11月9日の第1回デュオリサイタル以来、今回で5年目、第5回を迎えることになります。そもそも姉と弟の二人で演奏会を開こうとされたきっかけは、何でしたか。

 両親がスズキ・メソードの指導者(父:ヴァイオリン科の印田礼二先生、母:ピアノ科の印田倫子先生)をしているので、家で音楽をすることが自然な環境で育ちました。「一緒に何かやりたいね」という話は前から漠然とあったのですが、陽介が留学を終えて帰国したのをきっかけに、初めてデュオリサイタルという形で演奏会を企画しました。

ヴァイオリンとチェロの2本だけという分野は、選曲の難しさが相当にあるのではないかと思いますが、日本人の作品を必ず入れるなど、大変意欲的なプログラムで、毎回驚かされます。どんな点に苦心されていらっしゃいますか。

 とりあえず姉弟で何か企画するなら、ということで始めたデュオという編成でしたが、思った以上に面白く、もっと二人でいろいろな曲を演奏したくなりました。有名なラヴェルやハルヴォルセンから始めてしまったので、年々マニアックなプログラムになりつつありますが、名前は知られていなくても「聴いてみたら良かった」と思っていただけることを第一に選曲しています。まずはネットや図書館で検索し、どんな作品が存在するのか調べます。その中で、楽譜、あるいはCDが手に入るものは入手し、実際に目(耳)にした上で、選曲しています。

 日本人の作品もあまり知られていませんが、それもこの編成のみでの演奏会自体が少ない所為なのかなと思います。素敵な作品はたくさんありますし、せっかくこのような演奏会を続けるのだから、と必ず1曲は入れるよう心がけるようになりました。最近は嬉しいことに、新作初演の機会をいただいたりもしています。

 今年6月に、倉内直子氏の「共振-呼応の相互作用~ヴァイオリンとチェロのための」の初演をさせていただきました。私たち姉弟が出演した演奏会をお聴きくださり、その主催者を通してお話をいただきました。また、初演ではありませんが、今回のデュオリサイタルで演奏します「Talk」も、作曲者より直接楽譜をいただき、演奏する運びとなりました。

それぞれの単独演奏を入れず、とことんデュオにこだわったプログラムを維持されていることも驚きです。その意図は?

 「有名なレパートリーが少ない」ということが結果的にレパートリー追求に繋がっています。当初は「レパートリーが続く限り…」と思っていましたが、探せば探すほど素敵な曲はたくさんあり、当分このまま続けることになりそうです。本来、ヴァイオリンもチェロもそれぞれ大変ポピュラーな楽器です。気軽に楽しめるアンサンブルとしてこの上ない組み合わせのはずなのですが、それほど演奏される機会が多くありません。幅広いレパートリーを紹介していくことで、「この編成の魅力をもっと広く伝えられたら」と思っています。

 実は、デュオリサイタルを始めた当初「レパートリーが尽きたらピアニストをゲストにお迎えして」という話も出てはいました。でもそれまでは、できる限りのレパートリーを追求したい、というのが一つ。それから、ピアノトリオは3人のソリストが集まって演奏することも多い編成です。もちろん今でもピアノトリオを一緒に演奏する機会はよくありますし、ピアノトリオの良さはまた別にありますが、このシリーズでは敢えて姉弟デュオとしての演奏を極めたい、そして、普段あまり耳にする機会の少ない弦楽器2本のみという響きを皆様にもっと身近に聴いていただきたいという思いがありました。また、レパートリーが知られることによって、この編成がメジャーになればさらに嬉しく思います。

姉と弟のコンビということで、いい点、悪い点、いろいろありかと思います。表現のスタイルで、違いがあったりした時などは、どのようにされるのでしょうか。

 昔から、わりと仲は良い方だったと思いますが、今でも合わせをしていて喧嘩になることは滅多にありません。もちろん考え方は異なることもあり意見が分かれたりもするのですが、気を遣って遠慮することもなく、ざっくばらんにアイデアを出し合えるので、相手の意見に耳を傾ける柔軟さは、かえって増したように思います。

デュオの魅力は、ずばり、どんなところにありますか? お二人の楽器についても教えてください。

 同じ弦楽器同士ですから、音色が上手く溶け合うと非常に心地良く響きます。対等に繰り広げられる掛け合いは、目で見ても面白いのではないかと思います。

 陽介のチェロは、HOMOLKA,Ferdinandus Aug.Prag 1878、私のヴァイオリンは、ROCCA,Enrico 1890 Torino です。派手ではないけれど柔らかく温かい響きのするチェロと、明るく伸びやかなヴァイオリン、だと思います。

2016年9月にデュオのファーストアルバム「Water Droplets 〜珠玉のデュオ名曲集〜」をリリース致しました。表題曲の「水滴」(シベリウス)をはじめ、魅力溢れる小品を集めた名曲集です目標とされていらっしゃるデュオは、ありますか。

 カプソン兄弟(フランスのヴァイオリニスト、ルノー・カプソンと弟のチェリスト、ゴーティエ・カプソン)は素晴らしいですね。お二人が素晴らしい演奏家であることはもちろんですが、やはり一体感があるからこそ、自由自在に楽しめるというのが聴衆にも伝わってきます。

これまでの演奏曲で印象の強いベスト3を教えてください。

 ・マルティヌー:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲第1番
 ・ヘルマン:華麗なる大二重奏曲 Op.12
 ・細川俊夫:デュオ(1998)ヴァイオリンとチェロのための
 
 どれも好きな曲ばかりで迷ってしまいますが、マルティヌー独特の和声感は二人とも大好きです。この第1番もマルティヌーらしさのよく現れた、そしてコンパクトな構成ながらチェロの長大なソロが活躍する名曲です。ヴァイオリンを知り尽くしたヘルマンの作曲した華麗なる大二重奏曲は、タイトルの通り、大変技巧的で華やかな、掘り出し物と言える作品でした。細川氏の作品は、継続される響きの中に効果的に沈黙の間を取り入れた、「はかなきものは美しい」と考える日本人の心を見事に表現した素晴らしい作品です。

クリックで拡大 クリックで拡大今回の第5回デュオリサイタルの聴きどころ、注目ポイントは、どんなところでしょうか。

 毎回心掛けていることでもありますが、バロックから現代、ヨーロッパから日本、と多様なプログラムをお楽しみいただけるかと思います。この編成ならではの対話を、いろいろな角度から味わっていただければ幸いです。

 "チェロのパガニーニ"の異名を持つ19世紀の名手セルヴェとヴァイオリニストのギスが、イギリス国王讃歌「ゴッド・セイヴ・ザ・キング(神よ、王を守りたまえ)」の旋律を使って作曲した変奏曲は、大変技巧的で迫力のある華やかな作品です。

 また、今回取り上げる邦人作曲家・入野義朗は、2016年11月に生誕95年を迎えます。日本における「十二音音楽」の先駆者と知られますが、その功績はこの作品からも十分に窺えます。そしてメインのオネゲル、この編成としては、ラヴェル、コダーイに続き名前が挙がる作曲家ですが、実演はまだ少ない名曲です。

マンスリースズキの読者の皆様に、何かメッセージをお願いします。

 11月11日、ぜひ聴きにいらしてください。ヴァイオリンとチェロの純粋な響きを、そして姉弟ならではの対話をお楽しみいただけるよう、多彩な作品とともに心よりお待ちしております。

→印田千裕さん公式サイト
→印田陽介さんFacebook
デモ演奏も聴くことができます。
ラヴェル:ヴァイオリンとチェロのためのソナタ 第2楽章
パガニーニ:3つの協奏的二重奏曲第2番ト長調 第1楽章

2012年11月9日 第1回デュオリサイタル

・ハイドン:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲Hob.Vl.D1
・紺野陽吉:弦楽二重奏曲
・パガニーニ:ヴァイオリンとチェロのための3つの協奏的二重奏曲より第2番
・ヘンデル:パッサカリア(ハルヴォルセン編)
・ヴィラ=ロボス:2つのショーロス
・ラヴェル:ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
(アンコール)
・グリエール:8つの二重奏曲Op.39より第2曲「ガヴォット」
・モンティ:チャルダッシュ

2013年10月15日 第2回デュオリサイタル

・ハルヴォルセン:サラバンドと変奏(ヘンデルの主題による)
・團伊玖磨: ヴァイオリンとチェロのための対話
・グリエール:ヴァイオリンとチェロのための8つの小品Op.39
・マルティヌー:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲第1番
・パガニーニ:3つの協奏的二重奏曲より第3番
・コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲Op.7
(アンコール)
・パガニーニ:ロンド
・倉上 大 編曲:文部省歌「故郷」(この日のために編曲されたもの)

2014年10月26日 第3回デュオリサイタル

・マルティヌー:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲第2番H.371
・ストラヴィンスキー:イタリア組曲
・コレッリ:ソナタニ短調Op.5-7
・細川俊夫:デュオ(1998)ヴァイオリンとチェロのための
・ヴォルフ=フェラーリ:二重奏曲ト短調Op.33b
(アンコール)
・バッハ:インベンションより第1番
・シベリウス:水滴

2015年10月27日 第4回デュオリサイタル

・ベートーヴェン:二重奏曲第1番WoO.27-1
・ロンベルグ:「魔笛」の主題による変奏曲
・遠藤雅夫:「風の道」ヴァイオリンとチェロのための
・ヘルマン:華麗なる大二重奏曲 Op.12
(アンコール)
・バッハ:インベンションより第8番
・エルガー:愛の挨拶

2016年11月11日 第5回デュオリサイタル

・コレッリ:ソナタ第10番ヘ長調
・ヴォルフ=フェラーリ:序奏とバレエ
・寺内園生:Talk
・セルヴェ/ギス:”ゴッド・セイヴ・ザ・キング”による華麗なる変奏曲
・入野義朗:ヴァイオリンとチェロのための音楽
・バルトーク:ハンガリー民謡集
・オネゲル:ヴァイオリンとチェロのためのソナチネ
(アンコール)
・グリエール:8つの二重奏曲Op.39より第2曲「ガヴォット」
・シベリウス:水滴