関東地区の新年指導者研究会を、今年も対面で開催

 

 能登半島地震と羽田空港での大事故が続き、波乱の幕開けとなった2024年。被災地の1日も早い復興と事故の解明を願う中、関東地区指導者会主催による「2024年新年指導者研究会」が、1月8日(月・祝)の10時〜13時に、東京日暮里のアートホテル日暮里ラングウッド2階ホールで開催されました。今年の開催テーマは「世界につながるスズキへ」。2023年10月に開催された第3回国際ティーチャー・トレーナー会議の成果を踏まえ、指導者養成をはじめ、さまざまな分野、局面で「世界につながる」道筋を、スズキ・メソードに関わる全員で確認し合うことが必須となります。
 
 関東地区ピアノ科指導者の鈴木祐子先生とヴァイオリン科指導者の木村太一先生の司会進行で始まりました。冒頭、被災された皆様への心よりのお見舞いの言葉がありました。また、続いて関東地区委員長の小川みよ子先生からも、「本当に手放しで喜べない状況ですが、本日はこの会が開催できたことに感謝しながら、開催いたします」とご挨拶がありました。
 

早野龍五会長の年頭挨拶

 「元旦から能登半島で地震があり、現在、事務局で手分けをして関係される方々の被害の有無について調べているところです。皆様の中でも、情報がありましたら、お知らせください。よろしくお願いします。

 
 さて、今年は辰年です。私も辰年です。計算しないでくださいね(笑)。今年は、テンチルドレンツアーの第1回からちょうど60周年です。したがって1964年も辰年で、実は12歳の私も参加していました。このテンチルドレンツアー60周年を記念して、1月21日(日)には、東海地区の愛知県大府市でテンチルドレンコンサートを開催しますし、5月の連休中には、関西地区と関東地区でも開催します。可能な限り、皆様に聴いて、ご覧になっていただければと思います。
 

 来週、韓国のスズキ協会から招かれて、講演をすることになっていますが、「EVERY CHILD CAN BE EDUCATED(どの子も育つ)」という小冊子があることが最近になってわかりました。第1回のテンチルドレンツアーの時に、鈴木鎮一先生がアメリカで配布された冊子です。これを読みますと、60年前に鈴木先生がどういう思いでテンチルドレンツアーを実施し、どういうメッセージをアメリカの人たちに伝えようとされたのかがわかります。どなたか訳してくださると嬉しいです。

 今日は、宮田大さんの素晴らしいチェロを聴かせていただきますが、これまで広報チームの働きかけで実施しております「保護者とのネット交流会」の第4回を2月26日(月)に、チェリストの宮田大さんとお父様でチェロ科指導者の宮田豊先生をお招きして、いろいろとお話を伺ったり、質問にも答えていただこうという楽しい企画を考えています。
 
 2024年は厳しいスタートで始まりましたが、これからいい年になりますよう、皆さんと一緒にがんばっていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします」

 
 

特別講師長・東 誠三先生による講演

 続いて、ピアノ科特別講師で特別講師長でもある東 誠三先生による「褒めることと認めること」をテーマにされた講演がありました。いつもはピアノを弾かれながらの講演スタイルですが、今年はピアノなしでの珍しいスタイルとなりました。
 
 「褒めることは、特にお子さんを育てる指導者の皆さんには不可欠のものですね」と冒頭語る東先生は、「褒めることはスキルであり、技術です。個人指導を通して生徒さんに影響を与える立場の私たちにとって、これは技術であるべきです」と明言。ただ、褒める際の言葉が心からの言葉であっても、タイミング、言葉の選択、度合いが大切で、間違えると逆効果になることも指摘されました。
 
 そして、日頃のレッスンでの指導者の判断や観察のポイントも示されました。
①先週に比べてどの程度前進しているか? ②宿題がどの程度身についているか? ③次に改善すべき問題点はどこか? ④それらの優先順位は? 「一人ひとりの生徒さんにこれをじっくり取り組むことで、見極めの能力が確実に上がりますから、この観察と判断はとても大切です」と東先生。その際に投げかける言葉が重要で、全体の印象を伝え、個々の問題を具体的に説明する際に、毎週が同じパターンにならないことも必要とのことです。「特にコメントをしない場面を入れることもあります。何も言われないことって、生徒さんにとっては怖いことですから、かえって集中力を持たせる効果があります」。
 
 一通り弾いてもらった後で、「ありがとう」という言葉を必ず投げかけるという東先生。その背景には、1週間その曲に取り組んできたこと、そこで費やされた時間とエネルギー、その生徒さんの心持ちや音楽へのリスペクトに対しての感謝があるとのこと。「決してよく練習してきてくれたからの、ありがとうではありません」。
 
 そして核心に入りました。「褒めることよりも、実は認めること、の方が生徒さんには大切なんです」。東先生は、「人は認められたように育っていく」と言います。そしてその生徒さんが努力した工程(プロセス)にこそ、指導者は光を当て、観察することの大切さを説かれました。「生徒さんの演奏で先週より改善された部分を、具体的に言葉で伝えることです。よかった、悪かったではなく、具体的な言葉として。そのためには鋭く的確な観察力と語彙力が必要です」。さらには、生徒さんの理解の度合いを次のように分類することの重要性にも言及されました。
①やるべきことのイメージがあり、実際の再現も良いレベル。
②やるべきことのイメージがあるが、実際の再現は良くないレベル。
③やるべきことのイメージがなく、お手本をおうむ返しするレベル。
④やるべきことのイメージがなく、実際にもできないレベル。
⑤聞き慣れない言葉で、パニックになっているレベル
 
 「何を褒めるのか?」という命題についても、東先生は、結果ではなく過程(工程・プロセス)にあるとずばり指摘されました。これは、指導者にとって重要なご指摘でしたが、一方の生徒さんにとっても重要な視点になるところでしょう。前回のレッスンで先生から指摘されたことに対して、生徒さん自らがどう理解し、どうその問題に対処したか、そして試してみたか、そのプロセスこそ成長の証だということになるわけです。
 
 新年早々、大変勉強になるお話を伺うことができました。

チェリスト宮田大さんのお話と演奏

 コーヒーブレイクでの楽しいジャンケン大会を終え、いよいよ第2部には、チェリストとして各方面で活躍されている宮田大さんが登場。語りを交えてのライブ演奏では、穏やかなお話のスタイルとともに、圧倒的なパフォーマンスや心に沁みいる演奏など、バラエティ豊かな演奏が続きました。宇都宮支部で大さんが幼少の頃よりよくご存知のヴァイオリン科指導者、川沼文夫先生とのトークセッションも楽しいひと時となりました。
 

 1曲目は、宮沢賢治が作詞・作曲した「星めぐりの歌」。冒頭や曲間にバッハの無伴奏チェロ組曲を挿入するなど、随所に宮田大さんらしさが光る演奏でした。2曲目は、バッハの無伴奏チェロ組曲第3番より「ブーレ」。ヴァイオリン科指導曲集にもある曲で、耳馴染みのいい踊りの曲を、大さんは軽やかに弾かれました。前半の最後は、黛敏郎の「無伴奏チェロのためのBUNRAKU」。大変な超絶技巧曲として知られる曲ですが、太棹三味線のバチの動きや義太夫の独特な節回しをチェロで圧倒するかのように表現された大さんの演奏は、目を見張るほど。会場の皆さんの目も耳を釘付けになるほどの8分あまりの熱演でした。演奏の前には、この作品の持つ醍醐味を紹介され、男性が女性の言葉で語る「ちょいとおまえさん〜」のような表現もあることとか、人形浄瑠璃の人間国宝、 桐竹勘十郎さんとこの曲でコラボレーションされたことなどトークも演奏にひけをとることなく興味深い内容でした。ちなみに、この桐竹勘十郎さんとの2016年のコラボが、テレ東のサイトで有料配信されていますし、2020年に国立文楽劇場で公演された時のサイトも、紹介しておきましょう。
→2016年テレビ東京
→2020年国立文楽劇場
 後半は、趣向を変え、ヴァイオリン科指導者の川沼文夫先生も壇上に上がられ、赤ちゃんの時からよくご存じという宮田大さんにいろいろインタビューしてくださいました。この企画、素晴らしいですね!

 冒頭、川沼先生のお詫びから始まりました。なんでも、大さんが小さい頃に何かの拍子で川沼先生が大さんの腕を引っ張ったことがあったそうで、「その時のこと、本当にすみませんでした」とお詫びされ、会場の皆さんも大さんも大笑い。そして、2歳の頃には、先生たちの集まりで、隣の教室で遊んでいた大さんが、内側から鍵を間違ってかけてしまい、大騒ぎになった話が川沼先生から披露されました。大さんも「その頃ヴァイオリンを習っていましたが、チェロに移ったのも、落ち着きがなかったので座って練習するチェロに変えたくらいでした。その鍵の事件もきっとその影響ですね」とまたまた大笑い。「母と父がスズキの先生でしたので、いつも大人の皆さんと一緒にいましたし、一人っ子でしたから、仲間がたくさんいたのも嬉しかったことです」。「3歳の頃、リトルコンサートでリゴードンを弾いたビデオを見ると、チンパンジーみたいに父に舞台に連れてこられて、手や足をセットしてもらい、音楽が鳴ると自動で演奏するみたいな(笑)、懐かしいです。みんなの前で演奏できる楽しさがありましたね」。
 
 そのほか、中学時代にバレーボール部のキャプテンとして、団体競技の面白さをエンジョイしたり、人間としての礼儀作法も学ばれたと言います。高校時代の宇都宮〜東京の新幹線通学では、寝坊することが多く、駅までの車の中で丼飯を食べた話など、エピソードがいっぱい。
 
 川沼先生から「音楽の道へ進んだ理由」を問われると、音楽での友だちをたくさん作りたかったこと、そして高校1年で小澤征爾さんと共演できたことも、桐朋学園に入ってよかったこと、と大さんは即答されました。小澤さんのオペラ塾で、勢い余って速く飛び出した時も、小澤さんから「そのくらいの勢いでいいんだよ」と言われ、今もその勢いを演奏では大切にしていることが披露されました。「音楽バカになるくらい、150%の力を引き出されるような感じを小澤さんからは学びました」という大さんは、先ほどのバッハのブーレも、「バロックではあるけれど、私はオペラのように弾きたいなと思って演奏しました」と明快。「誰かに語りかけるような感じで演奏しています」とのこと。そうした小澤さんの一言や、倉田澄子先生からの「自由に弾きなさい」という教えが、あの大さんの独特な節回しになっているわけです。とても勉強になるお話でした。その後も、ジュネーブの音楽院で学んでいたカルテットのお話では、「教科書通りに弾くのではなく、お土産にいただいた日本酒を呑んでから、ハイドンの『日の出』を弾いた時の身体がほてってくるような演奏がいいねという話、演奏を探すのなく、自分の中にある人とは違う個性を見つめ直すことの大切さについても言及され、さらに趣味のスキューバダイビングでは無音の世界の中で、自問自答しながらリフレッシュしていることなど、「一期一会」ならぬ「一音一会」の世界観を語っていただきました。「13年ほど前のロストロポーヴィチコンクールでの優勝者コンサートでは、普段はいつも客席の一番後ろで聴くことの多い母(ヴァイオリン科宮田佳代先生)が、事務局のご厚意で前から3列目くらいにいました。そのことに演奏中に気づいて、あぁこれで恩返しができたかなぁ、と思いましたね」。お二人のトークは温かみにあふれ、素晴らしい時間を過ごすことができました。

 後半は、石川咲子先生のピアノ伴奏で、フォーレの「夢のあとに」、能登半島の震災に黙祷する形で演奏されたカッチーニの「アヴェ・マリア」、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」、プッチーニのオペラ「トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ」を演奏していただきました。アンコールはグラズノフの「2つの小品Op.20」第2曲の「スペイン風セレナーデ」でした。演奏はもちろん、トークも堪能でき、大さんの今後の活躍がますます楽しみになりました。