心温まるコンサートに感動しました

1月20日(土) 第88回 鈴木鎮一記念館 コンサート
主催:鈴木鎮一記念館

報告:等々力由季子(鈴木鎮一記念館)

 

 4年ぶりに鈴木鎮一記念館コンサートが開催されました。88回目を迎えます。1月20日は、カトリック松本教会にて鈴木鎮一先生のミサがあり、午後は、記念館でコンサートというスケジュールでした。
 
 演奏者は、鈴木鎮一先生と一番近い豊田耕兒先生、奥様の元子先生です。今年は、鈴木鎮一先生没後26周年とも重なり、 このようなタイミングで記念館コンサートを再開することができ、とても光栄に思います。

 前日の午後、リハーサルを行ないました。記念館に到着されて、「あぁ、懐かしい」と豊田耕兒先生から一言。その後、お休みされる間もなくリハーサルが始まりました。
 
 コンサート当日は、早めにご来館され見学されるお客様もいらっしゃいました。徐々に会場の席が埋まり、待ちに待ったコンサートが始まりました。多くのお客様が見守る中、厳かに、そして力強い演奏が記念館に響き渡りました。聴く側のお客様の表情も真剣そのものだったのが印象的です。

 プログラム終了後に、スズキ・メソードで習っている生徒さん、OBの方から花束贈呈がありました。
 
 アンコール曲の"歌の翼に"が終わった直後、松本音楽院第1期生で、豊田耕兒先生とも親交の厚い犬飼康元様から花束が贈呈され、微笑ましいシーンになりました。

 お客様から「先生、キラキラ弾いて!」とお声がかかり、スズキ・メソードで一番初めにお稽古する曲、"キラキラ星変奏曲"が演奏され、さらに"ちょうちょう"と続きました。思いもよらない展開に、このまま、スズキ・メソード指導曲集1巻をすべて弾いてくださるのではないかと期待するほどでした。
 
 ここで、一気に会場が和みました。会場にいらっしゃったお客様には、サプライズプレゼントになったのではないでしょうか。そして、綺麗な花束のお礼にと、元子先生のショパンのワルツで幕を閉じました。

アンコール曲は、次の4曲でした。
・メンデルスゾーン:歌の翼に
・鈴木鎮一:キラキラ星変奏曲
・ドイツ民謡:ちょうちょう
・ショパン:ワルツ嬰ハ短調Op.64-2
 
 鈴木鎮一記念館コンサートの再開に当たり、豊田先生ご夫妻に演奏していただき、これから続いていく記念館コンサートへの大きな力となりました。何とも、心温まるコンサートで感動の連続です。ご来場の皆様、コンサートを支えていただいたスズキの先生方、本当にありがとうございます。

 コンサートが終わった後も、豊田先生とお話しされたい方や取材の方に丁寧に対応されていました。


お客様からも素敵な感想をお寄せいただきました。
 
貴重なコンサートでした。

熱田由子

 「ぜひ、松本まで行っておいで」と東海地区ヴァイオリン科の長谷部直子先生から、2024年早々にお電話をいただき、妹と二人で、1月20日に鈴木鎮一記念館で開催された豊田耕兒先生&豊田元子先生のコンサートに行きました。特急しなので松本駅に到着すると、風で雪が舞っていました。とても早くに到着しましたが、記念館の中にあたたかく迎えてくださり、コンサート開始まで鈴木鎮一先生の展示を拝見いたしました。コンサートは50名までのところ、100名とお聞きしました。丁寧に一つひとつ並べられた椅子に、空きなく会場いっぱいでしたが、あたたかく心地よい雰囲気の中でコンサートが始まりました。
 
 シューベルトのヴァイオリンソナタでは、人生をともに歩んでこられたご夫婦の演奏に胸がいっぱいになりました。豊田元子先生のバッハのピアノ独奏では、ベルリン郊外のミヒャエルスタイン・サマーコースを受講させていただいた時の教会での響きを思い出しました。クライスラーの「前奏曲とアレグロ」は、ミとシだけで始まる前奏曲に始まり、後半の華やかなアレグロまで力強く、生き生きと、まっすぐに奏でられました。「真に生きる」、そんなメッセージを受け取ったように思います。記念館では、会場全体が明るかったので、サロンコンサートの朗らかさで、アンコールの最後は「キラキラ星変奏曲」や「ちょうちょう」まで、リクエストに応じてくださいました。貴重なコンサートでした。誠にありがとうございました。   
 


豊田先生  その純化された透明感あふれる美しさ 

長峯信彦(愛知大学法学部教授)
  豊田耕兒先生の卒寿、心よりお慶び申し上げます。私は、1987年の夏、群馬県草津で行なわれた音楽アカデミーにて先生のマスタークラスでレッスンを受けさせていただいた者です(当時大学3年生 / 元、名古屋の長谷部直子先生の生徒です)。 このたび鈴木鎮一記念館において、豊田先生の演奏を拝聴させていただき、ただただ感動いたしました。
 

 話が前後して恐縮ですが、今回の豊田元子先生は、米寿とは思えないぐらいタッチが安定していて、音楽的にすばらしい演奏でした。ピアノソロで弾かれたバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」は、私の席がグランドピアノの目の前だったこともあり、音が一つひとつ、心臓にグイグイと、まるで「音の川」が流れ込んでくるようで、本当に感動しました ─── それこそ「バッハ」の名の如くに。(「バッハ」とは「小川」の意)このピアノは、今思い出しても、胸に迫る名演です。(アンコールのショパンもまたしかり!
 
 さて、豊田耕兒先生の演奏ですが、シューベルトのソナタの後半から元気が出て来て、精気がみなぎってきました。切々と歌うシューベルトの音楽「心」は、さすが、先生ならではのすばらしい表現です。そこには純化された美しさがありました。そして最後のクライスラーの「前奏曲とアレグロ」は、さらに活気を増して、やや難しい最終部(分散和音のアルペッジオと三重音の連続アコード)を、スピード感をもって弾ききられました。もちろん、全員が拍手!  拍手! 
 
 1985年(私が大学に入った年)の少し前頃だったでしょうか、豊田先生は手の故障で演奏活動は中断されたと聞きました。しかし、草津でのレッスンの際には、時々、模範で音出しをしてくださったことがありました。私がレッスンのために持参していった曲は、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番(グラーヴェ&フーガ)とモーツァルトの協奏曲第5番(第1楽章)でしたが、バッハのフーガのレッスンの際に、鋭いダウンボウで三重音のアコードを、それはそれは美しい音で弾かれたのが忘れられません。今回拝聴した「前奏曲とアレグロ」の演奏には、まさにこれと同じ「音」がありました。昔を思い出し、私は胸が大変熱くなりました。
 
 終わった後、先生ご本人に直接ご挨拶させていただき、そのことを申し上げましたら、先生はじっと私の名刺をご覧になりながら、こう言われました。「あなたは昔、私に手紙か何か、何回か送ってくれませんでしたか?」
 
 エッ!?   驚きました。たしかに、草津でレッスンしていただいた後、クリスマスカードを2回ぐらい?(その年と翌年ぐらい?)お送りさせていただいたことがあったからです。まさか、覚えていてくださったのか?  ・・いやいや、まさか・・。そう思いつつ、しかし、下手の横好きの私に対し、ベルリンの豊田先生からご返事を一度頂戴したことがあったのは はっきりと覚えています。そこにはこう書かれていました。
 
 「音楽はウマイかヘタかではなく、心があるかないか、だと思います。またいつか、きかせてください」。この言葉は、音楽はもとより、音楽以外にも多々通ずることではないでしょうか。今でも私にとっては、大切な宝の言葉です。

【豊田先生は実は、ジョルジュ・エネスコ直伝のバッハ解釈の専門家でいらっしゃいます。レッスンの曲には必ずバッハの無伴奏を入れたらどう?  シャコンヌも良いけど  バッハなら ぜひフーガで受けては?  とお勧めくださったのは正岡紘子先生(後述)でした。しかし私の未熟ゆえに、草津のレッスンにおいてはこれを十分に吸収できなかったように思います。ただただ恥じ入るばかりです】

 
 最後に、豊田耕兒先生の貴重なエピソードをご紹介したいと思います。私は草津に伺う前、長谷部先生のお計らいで、正岡紘子先生に東京にて4ヵ月ほどレッスンしていただいた時期がありました(1987年4月~7月)。正岡先生はその昔、渡欧されていた際、豊田先生のお計らいで、なんとあのグリュミオー先生のレッスンを受けられたことがあったそうです。その際グリュミオー先生が、「こんどみんなで映画でも観に行こうか」とおっしゃってくださったことがあったそうです。正岡先生がすかさず、「じゃあ、豊田さんにもぜひ声をかけておきますね」と応じたところ、グリュミオー先生はこう言われたのだとか。「コージは毎日ヴァイオリンばっかり練習しているから、行くって言うかなぁ・・。でもコージも、たまには映画ぐらい観に行った方がいいかもね(笑)」
 

 世界の大家 あのアルテュール・グリュミオーも認めた「たゆまぬ研鑽の人・豊田耕兒」。 豊田先生の若かりし頃の精進のお姿が彷彿とするような話です。豊田先生がグリュミオー先生の共演者に何度も選ばれ(ヴァイオリニストでは特別と思います)、バッハのドッペルコンチェルトやモーツァルトのクラリネット五重奏曲ですばらしい演奏をされていることは(昔Philipsから出たCD / 日本でも発売)、何よりもそのことを客観的に物語っていると思います。

 豊田先生の音楽について、私如きが言及するのは大変恐れがましいかぎりですが、ぜひ、1965年録音の「豊田耕兒の世界1 ,2」(タワーレコード)をお聴きいただきたく存じます。中でもとりわけ、ヘンデル、エクレス、ヴェラチーニのソナタなどは(教則本の曲ですが、教則本用とは別に録音された音源です)、元子先生のピアノと併せ(特にヴェラチーニのピアノ前奏は圧巻!)、本当にすばらしいです。
 その純化された透明感あふれる美しさは、未だかつて、世界の誰も凌駕し得ない名演奏だと確信しております。
(編集部註:CDは編集部で探し出したものです。バッハのドッペルは現在も発売されています。画像をクリックすると、販売サイトのタワーレコードに繋がります)
 


     
 

 コンサート後に、豊田耕兒先生と元子先生と一緒に譜めくりをしてくださったピアノ科の菅原尚子先生(左)、ヴァイオリン科の井上悠子先生(右)と記念撮影をしました。