竹澤恭子先生による、中身の濃いヴァイオリン科研究会を開催しました!

1月26日(金)牛込箪笥区民センター2階ホール
主催:スズキ・メソード ヴァイオリン科委員会

 
 ヴァイオリン科特別講師の竹澤恭子先生をお招きして、1月26日(金)、ヴァイオリン科研究会が開催されました。今回のテーマは、モーツァルトの4番と5番の協奏曲。実際に生徒さんたちに弾いていただきながら、大変細かく、丁寧にレクチャーしていただきました。この時期は、ちょうど、卒業録音の検定を竹澤先生に進めていただいておりますので、全国の生徒さんから昨年届いた録音を聴いていただく中で、ポイントとなることなども教えていただきました。
 研究会は、ヴァイオリン科委員長の印田礼二先生の司会で、最初にエックレスのソナタの斉奏(写真)から始まりました。この日は、鈴木鎮一先生の命日にあたります。とてもしめやかで心のこもった「献奏」となりました。
 
 以下、竹澤先生からご指摘いただいた内容を、順番に見ていきましょう。
 
①協奏曲第4番より第1楽章(野口美緒先生クラスの生徒さん)

 ・カデンツァは如実に演奏家の思いがでるところですが、誠実に弾いていましたね。
 ・モーツァルトの楽譜は、現在、鈴木先生の版と豊田先生の版の2種類がありますが、豊田先生の版はオリジナルを大切にされています。ボウイングも豊田先生の版がいいですね。同じモーツァルトの中でいろいろな版がある中で、世の中の演奏家もいろいろな解釈で演奏しています。生徒さんが選んだテンポやフィンガリングについては、どういう演奏をしたいのか、どういう音を求めているのかが大切。何も考えずに弾くことだけは避けたいと思います。生徒さんにとってやりやすいことを先生方が考えることが大切。生徒さんのアイデアや個性は伸ばしてあげたいところです。
・豊田先生のフィンガリングは、五線の上下に書いてあります。上を選ぶなら、ずっと上がいいですね。そこに意図があるはずですから。
・モーツァルトの音楽をどうするか。フレージング、ハーモニーを考えるためのテクニックがあります。モーツァルトが鈴木先生の指導曲集の最後にある意味は何か、です。その中で、フレージングは特に大切です。メロディの終わりの音の扱い方。音の長さをしっかり保つ。おもりのある音と抜ける音の差。弦とのコンタクトや弓先での音楽も大切になります。
・弓を自由に持つことも大切です。音のエッジを立てないようにしましょう。エッジのたった音は、モーツァルトにはないと思います。
・セヴシックのOp.3の練習がおすすめです。セヴシックのすごいところは、コンチェルトの難しいところを分解して、どういうふうになっているのかを練習できる。それから曲に戻ると効果的です。自分の練習したいところを一つひとつのブロックに分けて、練習するといいですよ。「今日は5回やってみようか」というように。重音と単音の繰り返しのところもそうです。
   
②協奏曲第4番より第2楽章(守田千惠子先生クラスの生徒さん)
・基本的に綺麗なフレージングで弾かれていて、いいですね。スラーだけど、アップアップでセパレーツしていて、いいなと思いました。モーツァルトには、ロマン派にならないことを気をつける部分があります。
・1の指をずらす時に不安定にならないように。ファーストポジションの時の「-1」の表記の音程、気をつけたいところです。
・ポジション移動の練習には、セヴシックのOp.8がいいと思います。あと、アメリカでよく使われている教材で「Exercises for Change of Position」もおすすめです。グリッサンドしながら、ポジション移動を行き過ぎない練習ができます。
・この曲では、10度の跳躍が突然出てきます。10度の間隔を知るには、カール・フレッシュの音階教本を使うことになりますが、10度の練習をいきなりやると、指を壊してしまうから注意が必要です。4の指を先にとり、それから1の指を確認する方が指が開きます。ちょうどバレエのトレーニングで開脚ができるようになるのと同じなんです。
・難しいところは、ゆっくり分解する。少しずつです。重音は、もちろん指の問題もありますし、ポジション移動があります。ある程度の弓圧も必要ですね。指導曲集4巻のザイツの協奏曲第5番で重音が出てきましたね。クロイツァーの32番は重音の練習にいいと思います。
・全体の通し練習もいいですが、少しずつでも「育つ」ための部分練習!をおすすめします。
 
③協奏曲第5番より第1楽章(松岡洋子先生クラスの生徒さん)
・よく練習されているなぁという演奏でしたね。
・この曲の最大の特徴は、AdagioがあってAllegroがあること。Allegroに入ってから、響きの部分がちょっと足りないかなと思いました。あまり弓をコンパクトにすると、もったいないですね。肘の位置など、自分の演奏がどうなのか、客観的にわかっているといいと思います。
・フィンガリングを決めるには、どうするかという問題があります。何度やっても音程が定まらない場合は、そのフィンガリングを変えることもアイデアの一つなんです。そして、最終的に自分の弾きたい音楽になればいいと思います。
・第5ポジションの指の位置が身体のどのあたりにくるのかを確認することも大切です。そうすることで、安心感を持てるポジションになってきます。
・この曲は、オクターブのスケール練習をしておくことがおすすめです。
 
④協奏曲第5番より第3楽章(荒木千香子先生クラスの生徒さん)
・モーツァルトの感じをよく表現できていました。マイナーになる部分もはっきりして、いいなと思いました。
・ところどころでピアノとのやりとりが、もう少しイキイキとしてもいいかなという部分がありました。そのためにはどういう弾き方をしたらいいか、です。
・たとえば、出だしのところ。弓のスピード、弓の圧力、ヴィブラートでその感じが出せるでしょう。
・アウフタクトの音は、次のキャラクターを表現するので大切にしたい音です。その気持ちを持ってあげると、音楽がイキイキとしてくれるし、そういう世界に連れて行ってくれますね。
・それと、音の丸さと方向性。どこを狙うか、です。
・カデンツァは、カデンツァらしいルバートがあってもいいと思います。書かれている通りにやることもいいけど、強弱のメリハリをつけるなどアイデアをいろいろ出してみることもおすすめします。
・そして、カデンツァの後のアウフタクトのところは、「帰ってきた」という安心感があるといいでしょう。

質疑応答

会場の指導者からの問いかけにも、竹澤先生から丁寧にお答えいただきました。そのうちの2つを紹介します。
 
・セヴシックの9番をやることがあるのですが、いかがでしょうか。

この日紹介されたエチュードの数々

 いいと思いますが、全部をやるのは時間もかかるし、大変です。でも、セヴシックを練習に入れていくと、指の筋肉が育ちます。いい音を出すために、筋肉を少しずつ育てていくといいと思います。4巻くらいから重音がでてきますし。

・カデンツァの弾き方には、どのようなポイントがありますか。
 卒業録音では、生徒さんたちの動画を見ているわけではないので、どうなっているかわかりませんが、ハイポジションの時にどのくらい肘を入れているか、ですね。入れると余裕が生まれますし、ヴィブラートの掛け方にも関係します。臨時記号の音程が甘くなることが多いようです。卒業録音を聴いていて、半音の音程が甘い、という感想もありました。半音と全音の差がわかりづらい。指のフォームができるだけ崩れないようにすることが理想です。ですからセヴィシックなどをやることで、いろいろなパターンの練習にもなるし、指の分離にもなります。演奏家の方々も、こういう教材を入れていることも多々あります。日々のレッスンでも、いきなりモーツァルトではなく、こうした教材を入れていくことも必要。部分的でかまいません。効果があります。
 スラーの掛け方も卒業録音はいろいろありました。アーティキュレーションを楽譜通りにすることも必要だと思います。
 そして、音色を変えること、いろいろな音色作りもしてもらいたいところです。深い音なのか、音の種類を体感させてあげることが必要。「こういう音があるよね」と音の種類があることを伝えると、メリハリのある音楽になります。絵を描くときに、いろいろな絵が描けることと同じ。いい音というのは、一つだけではない、ということです。1色+いろいろな音があるということ。モーツァルトは、それを表現する楽しさがあります。練習する時もそれが感じられると思います。
 
ということで、大変中身の濃い充実した研究会になりました。竹澤恭子先生、出演の生徒さんたち、ピアノ伴奏の石川咲子先生、会場の先生方、お疲れ様でした。