「カルテットという名の青春」から15年
さらに4月3日〜4月30日までは、東京・銀座のシネスイッチ銀座で上映されていました。今後も全国での映画館で順次公開されます。今のところ発表されているのは、5月22日(金)~5月28日(木)フォーラム仙台にて上映予定です。仙台方面にお住まいの方、ぜひこのチャンスにご覧ください。
→「カルテットという名の青春」公式サイト
「成熟」を感じさせたジュピター・カルテット・ジャパン東京公演
さて、ジュピター・カルテット・ジャパンの4人(植村太郎・佐橘マドカ・原麻理子・宮田大)にヴィオラ奏者の今井信子さんが加わり、4月18日(土)、東京文化会館小ホールで満席の中、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第12番Op.127とブラームスの弦楽五重奏曲第2番Op.111が演奏されました。圧巻とも言える、素晴らしい演奏が繰り広げられ、83歳の今井と今を盛りの成熟した4人のメンバーが織りなす室内楽の調べは、聴衆に大きな喜びを与えたのです。
ベートーヴェンのOp.127は、有名な交響曲第9番Op.125の直後に書かれた室内楽作品です。その後に続く、ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲の幕開けでもあり、第九の世界観から一転して、親密な響きの中で精神の探究、内面的な対話を重んじた作品です。4人の成長を象徴的に表した作品と言え、「カルテットという名の青春」で描かれた時代から、それぞれが着実に地歩を固めてこられたことが見て取れる演奏でした。そこには「成熟」がありました。
続くブラームスのOp.111も、作曲者自身の人生の総括、円熟と解放を示唆した名曲。ここに今井信子さんが第2ヴィオラで加わったことで、室内楽の醍醐味が一層倍加し、あらためて室内楽とは何かを想起させる結果になりました。室内楽とは、技術の競演ではなく、人間同士の会話であり、時間と経験が交差する重要な場だと、改めて感じさせました。
ジュピター・カルテット・ジャパンが師事した中には今井信子さんもいて、さらにガボール・タカーチ=ナジがいます。このタカーチ弦楽四重奏団創立者でもあるナジと今井信子さんはブラームスの弦楽五重奏曲第1番、そして第2番でかつて共演しています。その時の今井さんは、第1ヴィオラを担当し、このYouTube動画でその素晴らしさを堪能することができます。そして、今井さんを中心に、同一の音楽思想の中で育ったことに気づかせます。
→タカーチ弦楽四重奏団+今井信子
ブラームスのOp.111は、別名ヴィオラ・クインテットとも呼ばれるほど、ヴィオラが音楽の核となります。内声を担当するヴィオラを2台配置し、哲学性を重んじることで、対話の濃度や音の厚み、呼吸が極めて重要になる作品です。それが、タカーチ=ナジ→今井信子→ジュピター・カルテット・ジャパンとつながることで、室内楽の系譜の美学がありました。今井さんの第2ヴィオラが音の重心となり、内側から音楽が生み出されるこの作品ならではの構成力をぐいぐいと形作っていました。
アンコールにモーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」を4人で演奏し、2曲目に今井さんが再登場し、ブラームスの第1楽章後半で締めくくる演出も見事。終演後のそれぞれのハグする微笑ましい姿に聴衆も笑顔と拍手喝采でした。
当日は、会場に撮影機材が何台も入っていました。「カルテットという名の青春」の続編、「カルテットという名の青春が過ぎても(仮)」が、今年中にBS朝日で放送予定ですので、この中で重要な部分として扱われるでしょう。どのような作品に仕上がるのか、今からとても楽しみですね。