新春を潤した河西絢子さんと東誠三会長の記念館コンサート

 
 新春1月11日(日)、今年、創設30周年を迎えた鈴木鎮一記念館の歩みが、ほぼ人生の歩みと重なる若き新星ヴァイオリニスト、河西絢子さんと本会会長の東 誠三先生のデュオリサイタルを記念館で披露していただきました。当日は、記念館のスペースが満員御礼、さらには多くの皆様に同時配信画像でお楽しみいただきました。
 
 そのさわりをレポートします。
 
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 この日、河西絢子さんと東誠三先生によるDuoコンサートは、入念に準備された実に多彩な曲目が並びました。ラインナップを見てみましょう。
・ベートーヴェン:ロマンス
・ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番
・クロール:バンジョーとフィドル
・プーランク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
・アルベニス/クライスラー:タンゴ
・ヴィエニャフスキ:モスクワの思い出
 お二人による曲目解説は、前号のマンスリースズキで紹介しています。
 →マンスリースズキ1月号の記事
 
 このプログラムの多彩さから感じられるのは、技巧の誇示ではなく、生きてきた音楽の地図といえます。ベートーヴェンの2作品、ロマンスと初期のソナタに共通しているのは対話としてのデュオであることです。ピアノとヴァイオリンが主従なく語り合う、原点的な室内楽。「音楽は人と人のあいだに生まれる」ことを、見事に展開されていました。一方で、クロールの「バンジョーとフィドル」は、クラシックの枠を軽やかに越える遊び心の象徴が現れているかのよう。一転してプーランクのソナタでは、異文化の中で生き、音楽家として自分を問い続けてきた現在進行形の河西絢子さんの姿が映し出されます。ヴィエニャフスキはヴァイオリンらしい華やかさが前面に出つつも、記憶や郷愁、歌心の共有を刺激してくださる演奏でした。
 そして、合間に展開されたお二人のトークセッションも意味深い内容でした。以下に紹介します。
 

原点と現在をつなぐ場所で
    河西絢子、鈴木鎮一記念館にて語る

 
 鈴木鎮一記念館の静かな空気の中で、東先生からの問いかけに、河西絢子さんは少し照れたように、しかし確かな言葉でこれまでを振り返りました。
 
 「東先生とは、本当に小さい頃からご縁がありました」。夏期学校で、ヴァイオリン課指導者である母のそばを行き来しながら過ごした幼い日々。楽屋の空気、響いてくる音楽、そして自然と耳に入ってきた東 誠三先生のピアノ。その一つひとつが、無意識のうちに彼女の中に積み重なっていったといいます。
 
 ドイツへ渡ったのは2018年の冬。現在はフランクフルト放送交響楽団のヴァイオリン奏者として演奏活動を続けています。「気がつけば、もう8年目になりますね」。異国での生活は決して平坦ではなかったそうです。特に苦労したのはビザの問題。予約が突然キャンセルされることもあれば、役所ごと、担当者ごとに対応が違うこともありました。時間通りに来ない電車に戸惑いながら、それでも一つひとつを受け止め、前へ進んでこられました。
 
 オーケストラの舞台には、イスラエル、アメリカ、イギリス、韓国、中国など、実に多様な国籍の奏者が並びます。「本当にインターナショナルですね。でも、ベートーヴェンを弾けば、ちゃんとベートーヴェンになるんです」。放送局のオーケストラならではの使命として、現代作品や知られざるレパートリーにも積極的に取り組み、演奏はYouTubeやラジオを通じて世界へ発信されています。
 
 今回のデュオ・リサイタルでは、幼い頃から耳にしてきた東先生のピアノと、初めて真正面から向き合われました。「夢のようでした。いい緊張感の中で、音楽に集中できた時間でした」。その言葉には、長い時間を経て実現した共演への、静かな感慨がにじんでいました。
 
 アンコールに選ばれたのは山田耕筰作曲の「赤とんぼ」。「ドイツで暮らしていると、日本で歌った記憶や、あの頃見ていた景色が、この曲で一気によみがえります」。異なる文化の中で得た刺激と葛藤。そのすべてを抱えながら、自分の原点を確かめるように、素敵な調べが続きました。
 
 「またすぐドイツに戻りますが、この曲を日本で弾けてよかった」。鈴木鎮一記念館という“原点の場所”で語られたその一言は、彼女が今もなお、自分の音楽を育て続けていることを静かに物語っていました。
 
 このトークセッションで語られていたフランクフルト放送交響楽団のYouTubeは、以下のサイトからどうぞ。河西さんのご活躍を見つけることができます。
→フランクフルト交響楽団YouTube