念入りに準備された打ち合わせ、そして心を一つにした前夜祭
①前日の準備、打ち合わせの様子
グランドコンサート前日の3月26日(木)、指導者・関係者・スタッフがTOYOTA TOKYO ARENAに集結しました。オリンピックや万博の会場を思わせるダイナミックな建築に圧倒されつつ内部へ足を踏み入れると、そこには想像をはるかに超える巨大な空間が広がっていました。すでに各所で準備は本格化しており、スタッフが忙しく立ち働く姿が至るところに見られたのです。
ステージ上では、生徒たちの立ち位置を示すための精緻なライン引きが進行。東側の進行本部席には、音響・映像・配信を担うチームが黒一色の装いで集結し、黙々とセッティングを進めていました。圧倒的な機材量、膨大なケーブル類、そして設置された10台のビデオカメラ―。そこには、全国指導者研究会や夏期学校で積み重ねられてきた配信チームの知見と経験が、惜しみなく注ぎ込まれていました。しかもその多くを、普段はそれぞれの教室で指導にあたる先生方自身が担っていることに、あらためて驚かされます。
13時30分からは、南側の可動席エリアを使って、前日ブリーフィングが開始されました。寺田義彦実行委員長の挨拶に続き、フロア進行責任者の荒木千香子先生による全体説明が行なわれ、実際のステージを目前に、客席に座って最終確認を行なうこの形式は、きわめて合理的で臨場感に富むものでした。その後、各担当ごとの分科会が客席の各所で展開されていく様子は、まつもと市民芸術館主ホールや小ホールで行なわれきた全国指導者研究会のグループ別会議を想起させ、各自のミッションを明確に共有する場として極めて機能的でした。
受付部門ひとつをとっても、その業務は多岐にわたります。メインゲート外では入場整理、案内、肩カード記入の誘導、ベビーカー置き場の管理。メインゲート内ではチケットもぎり、タグ・記念品・プログラムの配布、ファミリールーム案内、指導者およびアルバイト受付、報道対応、招待者対応、海外生徒対応、さらには当日券販売までが担われます。トヨタゲートでは、エキストラや車椅子利用の生徒の誘導も準備されていました。加えて会場部門では招待席への案内、通路係配置、エレベーター管理、救護体制の整備。接待部門ではゲスト奏者や皇室関係への対応も含まれます。これらすべてに対し、綿密なマニュアルや開催要項が整備され、それをもとに担当指導者たちが入念に確認を重ねていました。これらも先生たちが主体的に関わる姿、姿、姿。スズキ・メソードの真骨頂の一つが、素晴らしい連携プレイとして現れていました。
かつて「全国大会」として毎年開催されていた時代を知る指導者たちと、次世代を担う若手指導者が手を携え、一体となってこの大事業に向き合う姿には、圧倒的なエネルギーが宿っていました。コロナ禍を経て実に8年ぶりの開催―その歳月を埋めるかのように、実行委員会と指導者たちが積み上げてきた準備と情熱が、この瞬間に凝縮されていることを強く実感させられました。
②心を一つに、前夜祭を開催
ステージ中央には、4台のグランドピアノ(Shigeru Kawai)が整然と配置され、調律が静かに進められていました。その響きの気配を背後に感じながら、アリーナ西側のスペース(本番では可動席となるエリア)を会場として、恒例の「前夜祭」が16時30分より開催されました。別室ではなく、本番ステージを目前にしたこの空間での開催は、圧倒的な臨場感に満ちています。早野龍五理事長、東 誠三会長の挨拶、黒河内健業務執行理事による乾杯の音頭で、ケータリングによる会食が始まり、場は自然と和やかな交流のひとときへと移っていきました。思いも、そして胃袋も満たされながら、参加者同士のあたたかなコミュニケーションが広がっていきました。
続いて、寺田義彦実行委員長の紹介により、今回のグランドコンサートのために来日されたオーストラリア・スズキ協会会長、水島隆郎先生からご挨拶がありました。さらに、TOYOTA TOKYO ARENAを運営するトヨタアルバルク東京株式会社の取締役であり経営企画部部長でもある浅野英朗様より、「本アリーナは設計段階から、単なるスポーツ施設ではなく、社会と文化が交錯する場として、音楽イベントを積極的に受け入れる思想のもとに構想された」との言葉が寄せられました。その理念は、まさにスズキ・メソードの掲げる文化的価値観を大切にする願いと深く響き合うものであり、会場にいる誰もが大きな力を得た思いでした。さらに、浅野様のお嬢様お二人が東海地区ヴァイオリン科・吉野淳子先生のクラス出身であることも紹介され、場の空気はいっそう親しみに満ちたものとなったのです。
やがてプログラムは映像上映へと移り、1955年3月27日、東京体育館で開催された第1回スズキ・メソード全国大会(現在のグランドコンサート)を皮切りに、数々の歴史的名場面がスクリーンに映し出された。松本の本部事務局で大切に保管されてきたアルバムからの貴重な写真も多く含まれ、皇室との深い関わりもあらためて印象づけられる内容だった。関東地区の小川みよ子先生によるナレーションが映像に重なり、会場は静かな感動に包まれる。やがて最後に「いよいよ明日、新しい物語が…。」というテロップが映し出されると、大きな拍手が湧き起こり、前夜祭は幕を閉じた。明日への期待を胸に刻む、実に豊かな時間であった。