2026年5月10日(日)に開催された「愛に生きるから学ぶ 東会長を囲んで」第2回の様子です。
80周年を迎えたスズキ・メソードの今後のイベントなどについて、東 誠三会長からお話をいただいた後に、
鈴木鎮一先生のご著書「愛に生きる」を題材に、今回もいろいろとお話をいただきました。
テキストとなったのは、「愛に生きる」の第3章「非凡への道」の「盲児開眼」(P95~104)です。

 

子どもを信じる勇気と「第七感」が育む才能 〜東誠三会長と語る『愛に生きる』〜

 

 第2回となるオンライン保護者企画「東 誠三会長と語る “愛に生きる” の時間」が、5月10日(日)の19時〜20時半 にZoomを使って開催されました。全国の保護者や指導者がオンラインで集い、鈴木鎮一著『愛に生きる』の95ページからの「盲児開眼」をテキストに、東 誠三会長が直接参加者たちに語りかける形で進められました。

 今回、特に参加者の心を深く打ったのは、鈴木先生が視覚障害を持つ5歳の少年に初めてヴァイオリンを指導した際のエピソードでした。この物語と東会長の丁寧な読み解きから浮かび上がってきたのは、楽器を習得するという枠を超えた「人間の感覚の奥深さ」と、才能教育の根底にある「人間への深い信頼」でした。
 

「障害」ではなく「育つ力」を見る眼差し

 
 全盲の幼児にヴァイオリンをどう教えるか。鈴木先生は1週間考え抜いた末、ご自身の部屋を真っ暗にし、視覚がまったく機能しない状態を作り、自ら実験を行ないました。暗闇の中で手探りでケースを開け、弓を張り、ヴァイオリンを構えて調弦をする。結果として、先生は「真っ暗でも全部できた」ことに気づきます。
 
 私たちは普段、「見なければ何もできない」と勘違いしがちですが、触覚や動く感覚を通して、実は見えているのと変わらないほど正確に状況を「感じ取って(心の目)」います。
 
 東会長は、この箇所について「鈴木先生は“障害”そのものを見ていたのではなく、その子の中にある“育つ力”を見ていたのです」と語りました。“見えないからできない”という発想ではなく、“どうすれば育つ環境をつくれるか”。欠けているものではなく、可能性を見る姿勢こそが、鈴木先生の眼差しの最大の特徴だったことが伝わってきます。
 

わずかな変化を見逃さず、「ともに喜び、認める」

 
 鈴木先生がその5歳児に最初に出した宿題は、「弓が“見える”ようになる訓練」でした。弓の形をくまなく触らせて感じ取らせた後、「弓を上下・左右に動かす」という1週間の課題を出したのです。
 
 初めは斜めにしか動かせなかった腕が、1週間後には完璧な垂直・水平ではないにせよ、明らかに「上下」「左右」の方向を区別して動かせるようになっていました。ここで最も重要なのは、大人の目から見た「完璧な結果」を求めないことです。ほんのわずかでも方向性が芽生えた瞬間を見逃さず、その変化を的確に測り、評価する。
 
 続いて出された、左手でいきなり弓の先を「狙って」掴む遊び(集中力の訓練)でも、ご両親は何度も空振りする我が子に手も口も出さず、ただ見守りました。そしてとうとう掴めた瞬間に、圧倒的な達成感が生まれます。
 
 このようなとき、ただ言葉で「褒める」のではなく、ハイタッチなどをして「できた喜びを共有し、認める」ことが大切です。3回、5回と連続成功のハードルを設けて達成感を繰り返すことで、その感覚は「短期記憶」から、いつでも引き出せる「長期記憶(能力)」へと定着していきます。
 

楽器演奏のポイントとなる未知の感覚「第七感」

 
 さらに東会長は、楽器を弾く上で見逃されがちな感覚として「第七感」について言及されました。私たちは通常「五感」や直感的な「第六感」という言葉を使いますが、身体科学の世界では、身体の内部状態を知る「前庭覚(ぜんていかく)」と「固有受容覚」を第七感と呼びます。
 
 姿勢の保持やスピード感を感じる前庭覚。目を閉じていても自分の手がグーなのかパーなのか、腕が空中のどの位置にあるのかを感じ取る固有受容覚。実は、楽器を演奏して音を出すという行為は、この「固有受容覚」を圧倒的に使っています。
 
 外から見える「形」や「姿勢」にとらわれすぎず、「自分自身の内側の筋肉や関節がどう動いているか」という内面の世界へ目を向けていくことが、才能を伸ばす大きな鍵となります。
 

結果を急がず、毎日の積み重ねを信じる

 
 東会長は、「鈴木先生は、“できる子だけを伸ばす教育”を考えた人ではありません」と静かに語りました。盲目の少年を“特別な存在”として語るのではなく、「人間は環境によって育つ」という普遍的な真理として、すべての子どもの教育へと結びつけていったのです。
 
 現代の子育ては「結果を急ぎすぎる社会」のプレッシャーに晒されています。すぐに成果が見えないと不安になり、他の子と比較し、できる・できないで判断してしまう。「“この子はここまでしか無理”と、大人が先に限界を決めてしまうことの怖さ」について、東会長は警鐘を鳴らしました。
 
 種をまいてから芽が出るまで時間がかかるように、子どもが育つまでには「何も変化がないように見える期間」があります。鈴木先生は、その期間を許容し、“毎日の積み重ね”の中にこそ教育の本質があると見ていたのです。
 
おわりに:「子どもを信じる勇気」という才能教育の原点
 
 質疑応答では、保護者から「子どもについ先回りしてしまう」「できないところばかり気になってしまう」という率直な声も寄せられました。
 
 これに対して東会長は、「子どもは、本来育とうとする存在です。大人が希望を失わないことが、とても大切なのです」と優しく語りかけました。
 
 条件の違いを超えて、どの子にも育つ力が備わっている。その力を信じ抜けるかどうかを、まず大人が問われています。オンラインの画面越しでありながら、参加者たちは単なる読書会を超え、「子どもを信じる勇気」という教育の原点に触れる、あたたかくも深い時間を共有することができました。