「教える」から「育てる」へ ── 第12回幼児教育研究会夏期研修会を開催

 
 スズキ・メソード幼児教育研究会(YKK)は8月8日(土)、第12回夏期研修会をオンラインで開催しました。全国の加盟園の教職員の皆さまをはじめ、スズキ・メソードの指導者、本部関係者など、約140名が参加。午前9時から午後4時近くまで、子どもを「教える」のではなく「育てる」とはどういうことなのかを、講演と実践、そして鈴木鎮一先生の著書『愛に生きる』を通して考える一日となりました。
 
 今年度のテーマは、昨年に引き続き「『愛に生きる』~才能は生まれつきではない~ “スズキスピリッツを探る!! Ⅱ”」。午前に基調講演、午後には各園の紹介動画と『愛に生きる』を題材とした6つの分科会を設ける構成でした。持ち回りの進行役は、今年は大阪岸和田の認定こども園五風会、土金新治先生のご担当でした。
 
「備える」ことから始まる教育

 開会にあたり、土居孝信会長(大分県・双葉が丘幼稚園)は、直前に熊本を襲った地震に触れました。園児たちは日頃の避難訓練の成果から落ち着いて行動できた一方、大人の側には戸惑いもあったといいます。そこで改めて実感したのが、日頃から「備える」ことの大切さでした。

 そして土居会長は、この「備え」を保育にも重ねます。子どもたちが先生の方を向き、次に何が始まるのかを受け取れる状態をつくることもまた「備え」であり、そこに保育者の大切な技術があると指摘。「教える教育から育てる教育へ」という『愛に生きる』の言葉を紹介し、一人ひとりの子どもが育つことこそ教育の目的であると語りました。
 
「自ら気づいて動ける子」を育てる
 続いて登壇したのは、長年にわたり全国の保育園、幼稚園、こども園などを訪ね、発達が気になる子どもへの支援やクラスづくりについて実践的な助言を続けてきた福岡寿先生(日本相談支援専門員協会顧問)です。
 
 基調講演では、気になる子も引き込む子ども主体のクラスづくり~自ら気づいて動ける力を0歳から積み上げる~のタイトルで、保育者が一人ひとりを大切にしようとするあまり、絶えず声をかけ、指示し、困っている子のそばへ走っていくことで、かえってクラス全体が落ち着かなくなる場合があることを、数多くの現場事例から紹介しました。

 特に印象的だったのが「寄り添う」という言葉への問いかけです。泣いた子のところへすぐに駆け寄ること、困っている子の要求に一つひとつ応えることが、本当に「寄り添う」ことなのか。善意からの行動であっても、結果として子どもが「泣けば先生が来てくれる」と学習し、先生の言葉そのものが軽くなってしまうこともある──。福岡先生は、保育者自身が日々の実践を通して「自分にとって寄り添うとは何か」を問い続けることの重要性を語りました。
 

福岡寿先生

 その先に示されたのが、今回の講演を貫くキーワード、「自ら気づいて動ける子」です。

 保育者から「集まって」「片づけて」「次はこれをします」と指示されて動くのではなく、先生が立つ位置や周囲の友だちの動き、環境の変化などに子ども自身が気づき、考え、行動する。その経験を乳幼児期から繰り返し積み重ねることが、自主性、主体性へとつながっていきます。
 
 例えば、先生がいつもの場所に立つと、気づいた子から集まってくる。やがて友だちの姿を見て次の子が動き始める。そうした小さな「気づき」の積み重ねによって、保育者が声を張り上げなくても子どもたち自身が動けるクラスへと変わっていくといいます。
 
 「気になる子」を個別にどう動かすかという対症療法だけでなく、すべての子どもが参加しやすいクラスそのものをどうつくるか。その視点は、日々現場で子どもたちと向き合う参加者に大きな刺激を与えました。
 
 質疑応答でも、個々のケースに対する「正解」を求めるのではなく、子どもも保育者も一人ひとり違い、クラスは常に「ライブ」であるという福岡先生の姿勢が貫かれました。
 
全国の園の実践を映像で共有
 ランチタイムでは、80周年記念式典で上映された映像と、今年の夏期学校の写真と最新映像、さらには前日に広島平和記念公園で開催された日米のスズキの子どもたちの交流風景も紹介されました。
 
 午後は、各加盟園が制作した園紹介動画の上映からスタートしました。宮崎県の光ヶ丘幼稚園、大分県の双葉が丘幼稚園、双葉中央こども園、大阪府の認定こども園五風会、長野県の松本白百合幼稚園、福島の白百合幼稚園、さゆりこども園など、それぞれの園が大切にしている教育、子どもたちの日常、音楽活動などが次々と映し出されました。
 
 同じスズキ・メソードの理念を共有しながらも、その表現は園によって実に多彩です。映像を通して互いの実践を知ることが、この後の分科会での交流をより深めるための土台となりました。
 
『愛に生きる』を、今の保育の言葉で読む
 続く分科会では、鈴木鎮一先生の著書『愛に生きる』全8章と「まえがき」「あとがき」を6グループに分け、昨年に続き、「これはどういう意味だろう」「本当にそうなのだろうか」「ここには強く共感する」「今の園生活にも通じる」といった4つの視点から意見を交わしました。
 
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 そこでは、「才能は生まれつきではない」というスズキの根本思想が、現在の保育現場と重ねながら読み直されました。
 
 「できる・できない」で子どもを早く分けるのではなく、大人がまずその子の可能性を信じること。毎日の小さな積み重ねを見つめ、得意なことだけでなく、努力している姿にも目を向け、自信へとつなげていくこと──。第1グループからは、まさに日々の保育へ直結する言葉が聞かれました。
 
 各グループの発表では、結果だけを見るのではなく「繰り返す過程」を大切にすることや、保育者自身も日々の実践を振り返り、謙虚に学び続けることなど、午前の福岡先生の講演とも響き合う意見が次々に語られました。園長やスズキ・メソード側のメンバーは、各分科会を横断的に視聴する形で、自由に各部屋を傍聴し、それぞれが活発に意見交換されている姿を見ることができました。
 
『愛に生きる』を自分自身の一冊に
 午前の基調講演で示された「気づき」から自主性、主体性へとつなげる考え方や、保育者が先回りして手を出すのではなく、子ども自身が気づくための環境をつくることの大切さが改めて振り返られました。
 
 最後に土居会長は、「幼児教育は言葉の教育」と語り、日々子どもたちにかける一つひとつの言葉の重さを強調しました。そして、保育に迷ったときには『愛に生きる』のどこかに必ずヒントがあるとして、付箋だらけになるほど読み込み、それぞれが「私の『愛に生きる』」と呼べる一冊にしてほしいと参加者に呼びかけました。
 
 鈴木鎮一先生が説いた「どの子も育つ、育て方ひとつ」。その言葉を理念として掲げるだけでなく、目の前の子どもの「気づき」をどう待ち、どう引き出し、どんな環境を用意するのか。YKKの第12回夏期研修会は、スズキの思想を現代の保育の現場で生きた実践へとつなげていく、密度の濃い一日となりました。


参加者の声

 

宮崎光が丘幼稚園から ──「待つ」「気づく」「信じる」ことの大切さを実感

 
 宮崎の光が丘幼稚園からは、日々の保育を改めて見つめ直す機会になったという声が、後日のアンケートとして数多く寄せられました。
 
 中でも福岡寿先生の基調講演で強く印象に残ったのは、「自ら気づいて動ける子を育てる」という視点です。これまで、子どもが困らないよう先回りして声をかけたり、手を貸したりすることが丁寧な保育だと考えていたものの、それがかえって子ども自身の気づきや主体性を奪っていたのではないか──そんな振り返りが複数の参加者から聞かれました。「保育者が先回りして指示するのではなく、子どもが自分から気づくまで待つ」「環境を整え、見守ることも大切な援助である」と、保育者の立ち位置そのものを問い直す機会となったようです。
 
 また、「気になる子」への対応についても、一人の子だけを個別に動かそうとするのではなく、クラス全体が過ごしやすい環境をつくることが、結果として一人ひとりへの支援につながるという学びが共有されました。子どもの行動だけを見て判断するのではなく、その背景にある感覚の特性や環境との関係まで考えること、一人ひとりの良さや可能性を見つけて伸ばすことの大切さを実感したという声もありました。
 
 午後の『愛に生きる』をめぐる分科会では、鈴木鎮一先生の「才能は生まれつきではない」「どの子も育つ」という思想が、現代の保育にもそのまま通じることへの驚きや共感が広がりました。「できる、できない」で子どもの可能性を決めるのではなく、繰り返し経験する時間や、努力の過程そのものを大切にしたいという感想が目立ちます。
 
 さらに、他園の先生たちとの意見交換によって、自園では当たり前になっていた保育を別の角度から捉え直せたことも、大きな収穫でした。「他園の実践や考えを聞くことが刺激になった」「同じ文章でもさまざまな解釈があり、学びが深まった」といった声から、オンラインで全国を結んで学ぶYKKならではの意義も浮かび上がります。
 
 「教えるのではなく、育てること」「子どもを信じて待つこと」「毎日の小さな積み重ねを大切にすること」。研修会で得た気づきを二学期からの保育へ生かしたい──アンケートには、そんな前向きな決意が随所に綴られていました。『愛に生きる』を繰り返し読みながら、自分自身の保育を問い続けていきたいという声もあり、今回の研修が一日で終わるものではなく、それぞれの園でこれから続いていく学びの出発点となったことが伝わってきます。


松本 白百合幼稚園から ──「子どもが自ら動く」ために、大人の関わりを見直す

 
 松本市の白百合幼稚園から寄せられた感想で、とりわけ印象的だったのは、福岡寿先生の基調講演を受けて、これまでの自分たちの保育を根本から見直そうとする率直な声でした。「今までの自分の保育を180度変える保育の仕方が必要なことに驚いた」という感想に象徴されるように、子どもへの声掛けや手助けを丁寧に行うことが必ずしも主体性を育てることにはならず、むしろ子ども自身が気づき、考え、動くための環境を整えることが重要だという学びが、大きな刺激となったようです。
 
 担任は一人ひとりのもとへ動き回るのではなく、クラス全体を見渡す「司令塔」となり、補助の先生と役割を共有する。困っている子にもすぐ手を差し伸べるのではなく、自らSOSを出せる関係を築く。「待っててね」「あとで行くね」といった何気ない言葉についても、本当に子どもに寄り添うことになっていたのかを振り返る声がありました。
 
 こうした気づきは、具体的な実践への意欲にもつながっています。制作活動では手順を一つずつ指示するのではなく、子ども自身が見て考えられる環境を用意すること、絵画では「最近の子は描けない」と嘆くのではなく、幼い頃から描く経験そのものを豊かにすることなど、早くもさまざまなアイデアが生まれています。
 
 午後の『愛に生きる』の分科会も、新たな発見の場となりました。「どの子も育つ、育て方ひとつ」を、能力を伸ばす方法だけでなく「人としてどうあるべきか」を問いかける言葉として受け止めた先生もいます。ヴァイオリン活動についても、「弾けるようにさせる」こと以上に、子ども自身の「やりたい」という気持ちをどう育てるかが話題になりました。
 
 「子どもは少しずつ成長している。焦らずゆっくり見守る」「表面だけの結果ではなく、背景にある努力に目を向ける」。そんな言葉も報告書には記されています。子どもを信じ、待ち、必要な環境を整える。そのためにまず保育者自身が変わる──白百合幼稚園の先生方にとって、今回の研修会は、日々の保育をもう一度足元から考える機会となりました。


大分 双葉ヶ丘幼稚園から ──「子ども主体」をもう一度問い直す

 
 大分県の双葉ヶ丘幼稚園から寄せられた多くの感想には、福岡寿先生の講演を通して、これまで「子どものため」と思って行ってきた保育を、もう一度問い直そうとする姿勢が共通していました。
 
 「子ども主体」とは、子どもの要求にすべて応えることでも、自由にさせることでもありません。保育者が先回りして動いたり、絶えず指示や声掛けをしたりするのではなく、子ども自身が周囲を見て、気づき、考えて動ける環境をつくること。そのためには、担任がクラス全体を見渡せる位置に立ち、必要以上に動かず、補助の保育者とも役割を共有することが大切だという学びが、さまざまな先生から挙げられました。
 
 また、「寄り添う」という言葉への捉え方が変わったという声も目立ちます。困っている子のところへすぐに駆けつけることだけが寄り添うことではなく、その子が自ら解決する力を信じ、必要なときに支えられる環境を整えて待つことも大切です。「教えるより育てる」「待つことの大切さ」を改めて意識したという感想からは、保育者自身の立ち位置を変えようとする思いが伝わります。
 
 発達特性のある子どもへの関わりについても、「その子だけをどう動かすか」ではなく、クラス全体の環境を整えること、友だちとの関係の中で育つ力を大切にすることへの気づきがありました。一人ひとりの個性や興味を理解しながら、誰もが参加しやすいクラスをつくる。その視点を実際の保育へ取り入れたいという声が多く寄せられています。
 
 午後の『愛に生きる』をめぐる分科会では、「才能は生まれつきではない」「育てたままに育つ」という鈴木鎮一先生の言葉を、目の前の子どもたちと重ね合わせて考える時間となりました。結果だけで判断せず、子どもの可能性を信じ、繰り返しの中で育つ力を見守ること。そして、子どもの「やってみたい」という気持ちを引き出すためには、まず保育者自身が楽しみ、学び続けることが大切だという思いも共有されました。
 
 「教えるのではなく、育てる」。そのために大人はどう変わればよいのか。双葉ヶ丘幼稚園の先生方にとって今回の研修は、日々の何気ない声掛けや立ち位置まで振り返り、子どもを信じて待つ保育へ踏み出す契機となったようです。


大阪 認定こども園五風会から ──「寄り添う」とは何か、自らの保育を問い直す

 
 大阪府の認定こども園五風会から寄せられた多くの報告には、福岡寿先生の講演を聞きながら、自分自身の日々の保育と照らし合わせ、「子どもに寄り添うとはどういうことか」を改めて問い直す姿がありました。
 
 特に大きな気づきとなったのが、「気づく力」と「主体性」です。子どもが困らないよう先回りして声を掛け、手を差し伸べることを丁寧な保育だと思っていても、それによって子ども自身が考え、行動する機会を奪ってはいないか。泣いている子をすぐ抱き上げることだけが「寄り添う」ことなのか──。保育者がすぐに答えを与えるのではなく、子ども自身が周囲を見て気づき、考え、動き出すのを待つ。そのための環境をつくることこそ、大人の重要な役割ではないかという受け止めが、数多く記されています。
 
 一方で、「集団保育をしっかり意識した保育だったり、支援だったりの方法やあり方を説明してくださったので、とても腑に落ちる内容でした」という声もありました。子ども一人ひとりを大切にすることと、集団を育てることは対立するものではなく、クラス全体の環境や保育者同士の連携を整えることで、一人ひとりが安心して主体的に動けるようになる。その視点は、日々の保育を見直す具体的な手掛かりとなったようです。
 
 午後の『愛に生きる』をめぐる分科会では、鈴木鎮一先生の言葉を現在の保育に重ねながら、参加者同士で異なる解釈や経験を語り合いました。その中で印象深かったのが、同じグループに参加されたスズキ・メソードの指導者、佐田一江先生のお話です。佐田先生がスズキ・メソードに出会った当時に受けた衝撃や、現在までスズキに携わり続けていることへの思いが語られ、同じ分科会で一緒になった先生にとって、スズキの理念が長い年月を超えて人から人へ受け継がれてきたことを実感する貴重な機会となりました。また、俳句を英語でも詠む取り組みなど、日々の実践につながる新鮮な話題にも刺激を受けたといいます。
 
 「子どもを信じる」「待つ」「自ら気づくための環境をつくる」。研修を通して浮かび上がったこれらの言葉を、明日からの保育でどう実践していくか。五風会の先生方にとって今回の研修は、これまで培ってきた保育を否定するのではなく、その意味をもう一度問い直し、子どもの力をさらに信じる保育へと深めていく機会になったようです。


福島 白百合幼稚園から ── 子どもを信じ、「気づく時間」を大切に

 
 福島白百合幼稚園の先生方からは、福岡寿先生の講演をきっかけに、日頃の声掛けや援助のあり方を振り返る多くの声が寄せられました。
 
 共通して強く心に残ったのは、「自ら気づいて動ける子」を育てるという考え方です。子どもが気づく前に声を掛けたり、困っていればすぐに手伝ったりする。そうした行為を丁寧な保育と考えてきた一方で、先回りすることによって、子ども自身が「気づく」「考える」「動く」機会を少なくしてはいなかったか。環境や保育者の立ち位置を工夫し、まず子ども自身が気づくための時間をつくりたいという思いが、数多く綴られています。
 
 中でも印象深いのは、0歳児を担当する先生の言葉です。将来、自ら安心して行動できるようになるためには、乳児期から「ここは安全だ」と感じられる環境が必要であり、保育者自身が、子どもが安心して外へ目を向け、また戻ってこられる「止まり木」「港」のような存在になりたいと記しています。主体性を育てることが、実は安心できる人間関係づくりから始まることを感じさせます。
 
 一方、講演内容を実践に移す難しさにも率直な目が向けられました。異年齢クラスに毎年新しい3歳児が加わる環境で、0歳からの連続したクラスづくりをどう実現するのか。また、子どもの「自分でやってみたい」を尊重しながら、安全面や保護者の負担、集団生活に必要な約束とのバランスをどう取るのか。そこには一つの方法をそのまま当てはめるのではなく、それぞれの園や子どもの発達に合わせて工夫していこうとする姿勢があります。
 
 さらに、「自ら動ける」ことだけを求めるあまり、実は子どもを無理に動かしていたのではないかという振り返りもありました。「やりたくない」と言わず、まず活動に「エントリーする」ことも一つの成長と捉え、急がず段階を重ねていく。そのためには、何よりも園児を信じることが大切だという学びです。
 
 保育者がするべきことと、子どもに任せること。その境目に決まった答えがあるわけではありません。だからこそ、目の前の子どもの姿を見つめながら、「教える教育から育てる教育へ」を日々の実践の中で探していく。福島白百合幼稚園の先生方の感想からは、子どもを信じて待つことを、具体的な保育へつなげようとする真摯な姿勢が伝わってきました。
 


大分 双葉中央こども園から──「先回り」から、子どもを信じて待つ保育へ

 大分県の双葉中央こども園から寄せられた感想には、福岡寿先生の講演を受け、自らの日常の保育を振り返る率直な声が数多く見られました。
 
 とりわけ多かったのが、子どものためと思って行ってきた「先回り」への気づきです。困っている子を見ればすぐ声を掛け、次の行動を指示する。泣いていれば抱き上げる。しかし、それによって子ども自身が周囲を見て、考え、行動する機会を奪ってはいなかったか。「自ら気づいて動ける力」を育てるためには、大人が動かすのではなく、子どもが自分で気づける環境をつくり、信じて待つことが大切だという学びが、多くの報告に共通していました。27枚に及ぶ研修報告書からは、それぞれの担当年齢や立場を超えて、この問いが共有されたことが伝わってきます。
 
 一方で、「待つ」ことは何もしないことではありません。保育者がクラス全体を見渡せる位置に立ち、子どもが次に何をすべきか気づける環境を整えること。そして、必要なときには適切に援助すること。先生方の感想には、これまで何気なく行ってきた声掛けや立ち位置を見直し、「見守ること」と「手を差し伸べること」のバランスを探っていきたいという思いが綴られています。
 
 また、福岡先生の「寄り添う」という言葉への問いかけも、大きな刺激となりました。目の前の要求に応えることだけが寄り添うことではなく、その子がこれから生きていくための力を育てることまで見据えて関わる。その視点から、子どもの行動だけを見るのではなく、その背景や気持ちを考え、保育者自身の関わり方を変えていきたいという声も目立ちました。
 
 午後の『愛に生きる』をめぐる分科会では、「才能は生まれつきではない」「どの子も育つ」という鈴木鎮一先生の考えを、現在の保育に重ねて考えました。同じ文章を読んでも受け止め方は一人ひとり異なり、他園の先生方との対話を通して、自分にはなかった視点に出会えたことも大きな収穫だったようです。
 
 「子どもを信じる」「自分で気づくまで待つ」「できた結果だけでなく、そこまでの過程を見る」。双葉中央こども園の先生方の報告からは、研修で得た学びを理念のままにせず、二学期からの一つひとつの保育行動へつなげようとする強い意欲が伝わってきました。
 

園長ミーティングでの夏期研修会の振り返り

 9月4日(金)の夕方、オンラインで8月の夏期研修会を振り返りました。研修会に参加した職員からの研修報告を互いに見ながらの振り返りは、とても貴重な時間です。その中から、幼児教育研究会の今後の展開案についても具体的に意見交換されました。ここでは、各園長の夏期研修会の振り返りをまとめました。
 

福島 白百合幼稚園 塩谷恭子先生

 今回、園を休園として教職員の研修日に設定し、午前中は全員で参加しました。その経験から、各園によってスズキ・メソードへの取り組み方や意識には多少の温度差があるからこそ、午前中に全職員が共通して学べる講演をしっかり据えることが大切だと感じました。福岡寿先生の講演のように、若い職員にも20~30年の経験を持つ職員にも響き、スズキ・メソードとのつながりを考えられる内容が望ましいと思います。
 
 一方、午後の『愛に生きる』については、分科会で読むだけでなく、年間を通した研修として位置づけ、最後にまとめるなど、少し違った視点から取り組む方法も考えてよいのではないかと提案しました。『愛に生きる』を研究会の「バイブル」とするのであれば、夏期研修会一日だけで完結させず、継続的な学びに発展させたいという考えです。
 

福島 さゆり保育園 塩谷理恵先生

 『愛に生きる』の研修は3年シリーズの2年目まで来ているため、来年度の第3回までは現在の形式を基本的に継続してよいのではないでしょうか。まず各自で読み、その後グループに分かれて話し合う現在の方法を第3回まで続け、そのシリーズが終了したところで、その後『愛に生きる』をどのように読み続け、活用していくのかを改めて検討してみてはと考えています。
 
 また、自園から職員を研修会へ参加させたい気持ちはありながら、現状では参加しにくい事情もあり、それを今後打開したいです。
 

松本 白百合幼稚園 青木和子先生

 福岡先生の基調講演については、職員が非常に考えさせられた、たいへん良い講演でした。特に印象的だったのは、講演前に福岡先生の著書を職員に紹介したところ、多くの先生が自主的に手に取って読んだこと。その結果、当日の講演への理解が一段と深まりました。そこから、来年度の講演についても、事前に講師に関連する知識や資料に触れる「予習」を取り入れることが有効ではないかと考えています。
 
 午後の分科会については、職員から「やはり対面で話したい」という声が多く出ました。オンラインでは発言の順番を待つなど会話に制約があり、対面ならもっと自由に話を深められます。一方で全員が集まることは現実的に難しいため、一部対面+オンラインのハイブリッドも選択肢ではないかと考えています。
 
 『愛に生きる』については、2年間の研修を通して、それまで「高みにあるもの」だった本が、職員にとって少しずつ身近な存在に降りてきたことを実感しています。第3回まで継続する意義は大きく、その後、日常の保育の中でどう身近に置き、活用し続けるかを考える必要があります。
 

大阪 五風会 土金新治先生

 司会進行を担当した立場から、今回の研修では事前準備が非常に効果的でした。事前アンケートを実施し、職員が講師の福岡先生の著書を読んで研修に臨んだことで、学びが深まりました。また『愛に生きる』も1年目、2年目と継続して読むことで、鈴木鎮一先生の幼児教育への考え方を、職員が次第に「自分ごと」として受け止められるようになってきたと感じています。
 
 分科会は少人数になるよう工夫したものの、やはり対面にはかなわないという感想もありました。ただし、午前中の福岡先生の「子どもの困りごとを大人が丁寧に見取る」という話が、午後の『愛に生きる』の話し合いにもつながっており、午前と午後の内容がうまく連動した研修になりました。
 
 さらに、各園の保育理念や実践方法は違っていても、スズキ・メソードを掲げる園として共有できる「ベースライン」をつくるうえで、3年間継続して『愛に生きる』を学ぶことには大きな意味があります。また、鈴木先生から直接学ばれたスズキ・メソードのベテラン指導者が分科会に入り、その理念を語っていただいたことが若い職員にも強く響いた点、とても良かったと思います。
 

大分 双葉ヶ丘中央こども園 小川内貴志先生

 オンライン研修そのものに大きな意義を感じています。以前は大分から松本などの研修に参加できる職員が限られていましたが、コロナ禍を契機にオンライン方式が定着したことで、現在は休園日にして全職員が研修へ参加できるようになり、園全体でスズキ・メソードを学ぶ環境が生まれました。まだ道半ばではあるものの、職員への意識づけが着実に進んでいると感じています。
 
 『愛に生きる』についても、同じ本でありながら読む時期によって受け止め方が変わり、そのたびに新しい発見があることに価値を感じています。日常の教育・保育の中で「『愛に生きる』にはどう書かれていただろう」「鈴木先生ならどう考えるだろう」と振り返る環境が、ようやく園内にでき始めたところです。
 
 また福岡先生の講演を受け、職員の研修報告の中に「まずやってみたい」という声が複数あったことは大きな成果でした。一歩踏み出すことは容易ではないが、職員が実践へ向かう前向きな気持ちを持て、とても良かったと思います。
 

宮崎 光が丘幼稚園 下苙敏大先生

 今回の研修全体について、福岡先生の講演はレジュメが用意され、後から振り返ることができ、しかもすぐ保育実践へ結びつけられる内容でした。講演後には園内で「運動会の準備係を子どもたち自身につくらせてみよう」といった具体的な話まで発展し、研修内容がすぐに現場の議論につながりました。
 
 また研修前には、職員一人ひとりに2時間ずつ保育から離れて読書する時間を設け、『愛に生きる』や福岡先生の著書を読む機会を確保しました。この事前学習をしたうえで研修に臨めたことも良かったことです。
 
 『愛に生きる』の3年目は継続しつつ、職員からは他園の具体的な保育方法についても知りたいという要望が出ています。自園では当然と思っていることでも、他園には別の優れた方法があるかもしれない。したがって、『愛に生きる』を読みながら、「実際の保育ではどうしていますか」という園同士の実践交流を組み合わせることも検討したいと考えています。さらに、分科会では発言しない参加者が生まれないよう、グループリーダーがファシリテーターとして機能する仕組みも課題です。
 

大分 双葉ヶ丘幼稚園 土居孝信先生

 参加者から寄せられた感想を読み、各園が共通して「困りを持つ子どもへの対応」に苦慮していることを改めて認識しました。その意味で福岡先生の講演は現場のニーズと非常によく合致しており、今回の講師選定は成功でした。さらに今回できた福岡先生との縁を一度限りにせず、各園を訪問して実際の保育を見てもらい、直接助言を受けるような関係へ発展させたいと考えています。
 
 『愛に生きる』については、研究会の「バイブル」として今後も形を変えながら継続して研究すべきと思います。若い職員が楽しみながら鈴木鎮一先生の考えを学べる「スズキ・メソード検定」のような仕掛けも一案とし、自身も何かに迷った際、「鈴木先生だったらどう考えるだろう」という視点を持つことが、自分の考えを整理する大切な「チャンネル」になっています。
 
 さらに、鈴木先生から直接学ばれた世代の指導者が分科会に参加し、自信をもって理念を語ることには大きな価値があるため、来年度はそうしたベテラン指導者にも各分科会に入ってもらいたいと思います。一方、オンラインだからこそ約140人規模の手作りの研修会が実現できるという利点は維持しつつ、年に一度程度は園長らが実際に各地へ出向き、園を訪問し、直接交流する機会を設けたいと思います。