フランクフルトの響き、故郷へ
―河西絢子が描く「歌」と「情熱」のヴァイオリン・リサイタル
幕開けは、エルガーの《愛の挨拶》。妻アリスへの婚約記念として書かれたこの小品は、穏やかな旋律と気品ある抒情によって、世界中で愛される名曲です。河西さんの温かな音色が、この作品の優しい語り口をいっそう引き立ててくれるでしょう。
続くモンティの《チャルダッシュ》は、哀愁を帯びたゆったりとした冒頭から、終盤の目もくらむような超絶技巧へと至るこの名曲です。河西さんのヴァイオリンの華やかな魅力を余すところなく伝えます。
そして、サラサーテの《カルメン幻想曲》。ビゼーの歌劇《カルメン》の名旋律をもとに書かれたこの作品は、ヴァイオリン奏者にとって憧れの超絶技巧作品の一つです。「ハバネラ」や「闘牛士の歌」など、おなじみの旋律が次々と現れ、華麗なパッセージとともにドラマティックな世界が展開されます。
プログラムの中心に据えられているのが、フランクの《ヴァイオリン・ソナタ イ長調》。19世紀フランス音楽を代表する傑作であり、深い精神性と情熱的な歌に満ちた作品です。4つの楽章が循環する構造はフランクならではで、最後にはそれまでの主題が美しく結び合わされていきます。その壮大な構成は、演奏者と聴衆がともに長い物語を旅するような感覚をもたらしてくれるでしょう。
親しみやすい小品から超絶技巧、そして深い精神性を湛えた大作まで―。今回のリサイタルは、ヴァイオリンという楽器の魅力を多面的に味わうことのできる、実に贅沢なプログラムです。
マンスリースズキの読者の皆様に、河西絢子さんからのメッセージです。
日本はきっと梅雨の時期でしょうか。私が暮らすドイツでは連日39度を超える猛暑が続いています。冷房がないのが普通のこちらでは、毎日を耐え抜くのに精一杯な日々です。そんな中、今年は7月に私の地元である長野県茅野市、そして東京の三軒茶屋でリサイタルを開催することになりました。
ドイツで「外国人」として生活している私にとって、母国でリサイタルができることには、それだけで特別な心境の変化があります。その原点にあるのは、やはり「スズキ・メソード」です。ヴァイオリンを始めてから、たくさんの先生方に支えられ、楽しくのびのびと音楽に向き合ってきました。途中でその気持ちを忘れてしまった時期もありましたが、最近になって自分自身と深く対話する時間を経て、再び「心から音楽を楽しむ喜び」を噛み締めています。
海外生活のなかで様々な壁にぶつかり、悩み抜いた過去があるからこそ、日本で舞台に立ったときに顔見知りのお客様の姿が見えると、まるで味方がいるような安心感と、深い感謝の念が込み上げてきます。この温かさは、ドイツへ渡ったからこそより強く実感できたものです。
今回のプログラムの一部は、去年の茅野でのリサイタルでいただいたリクエストを集めて構成し、さらに名曲を集めたボリュームたっぷりな演奏会となります。名曲だからこその緊張感もありますが、久しぶりの日本、皆様にすこしでも楽しんでいただければ幸いです。 お会いできるのを、心から楽しみにしています。
河西さんのご活躍の様子は、フランクフルト放送交響楽団のYouTubeから見つけることができます。
→フランクフルト交響楽団YouTube
河西さんと東誠三会長が鈴木鎮一記念館で共演した2026年1月11日(日)の新春コンサートについては、マンスリースズキ2月号で紹介しています。
→マンスリースズキ2月号の記事