音楽が結ぶ二つの「楽都」
〜松本とザルツブルク、友好の新たなステージへ
「音楽の都」として世界に知られるオーストリア・ザルツブルクと、日本を代表する音楽文化都市・松本。その二つの街の交流が、いま大きく前進しています。
松本で発行されている「市民タイムス」は、7月25日、臥雲義尚松本市長と阿部功祐市議会議長がザルツブルクを訪問し、今後の交流拡大に向けた覚書を締結したことを大きく報じました。会談の場となったのは、2025年大阪・関西万博オーストリア館で展示された、五線譜をモチーフにしたシンボル・オブジェの寄贈に関する調印式です。このオブジェは、今後、松本市に設置され、日本とオーストリア、そして松本とザルツブルクの友好を象徴する存在となる予定です。
しかし、今回の訪問の意義は、記念モニュメントの受け入れにとどまりません。臥雲市長は、「シンボルだけで終わることなく、その先に実質的な交流を積み重ねていくことが重要」と語り、教育、文化、経済、観光など幅広い分野での継続的な交流への意欲を示しました。まさに「交流の象徴」から「交流の実践」へ―両都市の関係は新たな段階へ入りつつあるようです。「市民タイムス」の7月29日の記事でも、重ねてザルツブルク市との覚書締結のニュースが報じられました。
松本市の公式サイトによれば、2025年5月、大阪・関西万博のオーストリア館で、松本市長とザルツブルク州副知事、ザルツブルク音楽祭総裁との初めての公式会談が実現。そこでは、「音楽」と「アルプス」という二つの都市に共通する価値を確認し、友好を深めていくことが合意されました。
その前後には、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学を中心とした国際合唱団の松本公演、モーツァルトが愛用したヴァイオリンの特別展示など、音楽文化を軸とした交流事業が相次いで実現しました。さらに同年夏には、臥雲市長と阿部議長がザルツブルク音楽祭開会式へ正式招待を受けて現地を訪問し、音楽祭関係者やモーツァルテウム大学とも意見交換を行なうなど、交流は行政から教育・芸術分野へと着実に広がっています。
そして今回の記事で、とりわけ音楽教育に携わる私たちにとって喜ばしいのは、スズキ・メソードが両市交流の話題として取り上げられたことです。
才能教育研究会創立80周年記念祝賀会(7月31日)でも
このニュースをお話しされた臥雲松本市長
ザルツブルクには、世界屈指の音楽大学であるモーツァルテウム大学があり、一方、松本には鈴木鎮一先生が創始したスズキ・メソードが生まれ、世界74ヵ国と地域へ広がる音楽教育ネットワークが存在します。演奏文化だけではなく、「音楽教育」という共通の財産が、両都市を結び始めたことの意味は大きいと言えます。
鈴木先生は、「美しい音で育てる」という理念のもと、音楽を専門家だけのものではなく、すべての子どもの人格形成に生かそうと考えました。その思想は今日、世界各地で受け継がれ、多くの海外の教育機関とも接点を持っています。ザルツブルクとの交流の中で、この教育理念が自然な形で語られたことは、松本が世界に誇るもう一つの文化資産として、スズキ・メソードが認識され始めていることになります。
これまで両都市はアルプスに囲まれた「音楽祭を持つ街」という共通点で結ばれてきました。これからは、「音楽を通して人(子ども)を育てる街」という新たな共通項が加わるかもしれないことになります。
行政、文化、教育、市民交流―そのすべてが有機的につながるとき、「二つの楽都」の友好は、一過性の交流ではなく、次世代へ受け継がれる豊かな財産となるに違いありません。
今回のザルツブルク訪問は、その未来への確かな第一歩として、長く記憶されるでしょうし、今後の展開が楽しみです。
1996年に世界遺産「ザルツブルク市街の歴史地区」の一部として登録されたザルツブルク城。松本城と同様、市民の誇りで、観光の目玉です