川本嘉子さんのこれからの演奏活動について、お尋ねしました!

 スズキ・メソード出身のヴィオラ奏者で夏期学校や全国指導者研究会でのコンサートやご指導、さらにはOB・OG会への積極的なご出演など、お世話になることの多い川本嘉子さんに、近況をZoomでお尋ねしました。


 この2月は、まず4日(木)に、 名古屋で新しく活動を始めた若い演奏家ばかりのオーケストラの愛知室内オーケストラ(ACO)と「ソリスト川本嘉子シリーズ」がスタートします。感染対策を十分に施しての開催で、ヴィオラ のレパートリーとしては最もポピュラーなバルトークのヴィオラ協奏曲を演奏します。
 本当は、2020年3月にACOのコンサートマスターとモーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲(シンフォニーコンチェルタンテ)」を予定していましたが、コロナで延期に。それを仕切り直す前にヴィオラ好きのスポンサーからリクエストされたのが、「ソリスト川本嘉子シリーズ」。お楽しみくださいね。
■2月4日(金)18時45分開演 三井住友海上しらかわホール(名古屋)
 入場料:S席3,500円、A席3,000円、B席2,000円、U-25席1,000円
 指揮:下野竜也、ヴィオラ:川本嘉子   
 ・武満徹:地平線のドーリア
 ・バルトーク:ヴィオラ協奏曲 BB 128
 ・ドヴォルザーク:交響曲第8番ト長調 Op. 88, B. 163
  お問い合わせ:愛知芸術文化センタープレイガイドtel.052-972-0430
 
 一方、2017年からのNHK交響楽団とのヴィオラ首席客演奏者としての契約が、この3月で終了します。東京都交響楽団にヴィオラ首席奏者として在籍した1999年〜2002年以来となるオーケストラでの活動は、4年に及びました。

パブロ・エラス・カサド

 都響のときは、まだ若手でしたし、随分と甘えさせていただいたところもありました。でもN響では、これまでとは違い、いろいろと勉強になるところが多かったですね。ベテランのプロムシュテットさんや、これから絶対売れるはずの パブロ・エラス・カサドさんのようなマエストロのもとで演奏できましたし、若手ソリストたちとの心躍る共演をいくつも体感しました。新しい才能に出会った喜びを自分の中でマークできる快感というのかな、そんな気分を味わうことができました。

 N響ヴィオラ首席客演奏者としての最終出演は、以下の2公演です。
■2月12日(金)18時開演 東京芸術劇場
■2月13日(土)14時開演 東京芸術劇場
  入場料:S席7,000円、A席5,500円、B席3,500円
  指揮:熊倉 優
  ヴァイオリン:イザベル・ファウスト
  ・スメタナ:歌劇「売られた花嫁」─ 3つの舞曲
  ・シマノフスキ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 作品35
  ・ドヴォルザーク:交響曲 第6番 ニ長調 作品60
   お問い合わせ N響ガイド tel.03-5793-8161
 
 3月23日(火)には、小澤征爾音楽塾特別公演2021に講師の一人として出演します。「小澤塾」では、20年前に私自身も若手の一人として鍛えられましたが、今も小澤先生のもとで、若手を育てるプログラムが上手に継承されていることは、本当に素晴らしいことだと思います。小澤先生は、いつもこうおっしゃいます。「オーケストラはもちろん大切だけど、室内楽を勉強しているかどうかがもっと大切。ただオケをやっている人と、カルテットを勉強した人では違うんだ」と。常日頃、小澤先生の気迫はすごくて、廊下を歩いていらっしゃるだけで、オーケストラの音が変わってくるのです。塾生たちのオケは計算しているわけでもないのに、そういう変化があるのです。でも彼らには、小澤先生、とてもやさしいですよ。サイトウキネンのメンバーには、とてもきびしいですが(笑)。
■3月23日(火)19時開演 東京文化会館大ホール
  入場料:S席5,000円、A席3,000円、U-25席1,500円(2月20日から発売)
  指揮:ディエゴ・マテウス
  音楽監督:小澤征爾
  小澤征爾音楽塾オーケストラ
  ・R.シュトラウス:13管楽器のためのセレナード 変ホ長調 作品7
  ・チャイコフスキー:弦楽セレナード ハ長調 作品48
  ・ベートーヴェン:エグモント序曲 作品84
  ・ベートーヴェン:交響曲 第1番 ハ長調 作品21
   お問い合わせ ヴェローザ・ジャパン tel.03-6411-5445
 
 2020年の東京・春・音楽祭では、いくつかの演奏会を聴きに行きましたが、コロナのために本当に大変な惨状でした。今年は、4月3日(土)に「ブラームスの室内楽Ⅷ」に出演し、ブラームスのクラリネット五重奏曲をクラリネットの代わりにヴィオラ版で演奏します。このシリーズも大詰めになってきています。今回のクラリネット五重奏曲は、よほどの機会がないとできない曲ですし、この曲の魅力をより知ってもらいたいと思うあまり、プレッシャーも実はあります。というのも、クラリネットのために書かれている作品ですので、それ以上に説得力のある演奏にしないといけません。昨年のメンバーとは変更になりましたが、楽しんでいただければと思います。
■4月3日(土)18時開演 東京文化会館小ホール
  入場料:S席6,000円、A席4,500円、U-25席1,500円(2月上旬から発売)
  ※ライブストリーミング配信も準備中(当日、同時刻のみ配信、1,500円)
  加藤知子、矢部達哉(ヴァイオリン)、川本嘉子、横溝耕一(ヴィオラ)、向山佳絵子(チェロ)
  ・ブラームス:クラリネット五重奏曲 ロ短調 Op.115(ヴィオラ版)
  ・ブラームス:弦楽五重奏曲 第1番 ヘ長調 Op.88
   お問い合わせ 東京文化会館チケットサービス tel.03-5685-0650
      →主催者サイト
 

 コロナ禍に、何かしらのものを医療現場に届けたい
 東日本大震災の時も直後に東京・春・音楽祭があったのですが、唯一開催された演奏会でみんな泣いていましたね。他がみんなキャンセルされていた時でした。そういう時にこそ音楽の大切さがあると思いましたし、「現場でこういう表情をしていた」、「この一言をもらった」ということが、後から響いてくることも体験しました。2016年の熊本地震の時も駆けつけたいという気持ちはありましたが、残念ながらかないませんでした。
 コロナの医療現場に行って、エールを送りたいという気持ちは今、強くあります。本当に届けたい音楽はその時間にそこにいないといけないと思っているのです。でも実際には大変なことですよね。それを回避するためにも、芸術作品を置いてもらうなど、他の芸術とコラボするようなスタイルでもいいかもしれません。私がそこにいなくても、他の演奏家がいなくても、例えば何らかの芸術作品に出張に行ってもらって、その場を通ると医療現場の皆さんが、その瞬間でなくても、後からあの時にこうだったなと思ってくださるような、そんなことを目指して何かができればと思っています。必要に応じて、演奏もお届けしたい。壊れやすい芸術作品なら朽ちてゆくまで置かせていただく。寄贈もありでしょう。本当に被害に遭っている方々、医療に従事される方々は、涙が流せないものですが、ひとときでもその大変さから気持ちが解き放たれ、音楽の世界に浸っていただければと思っています。でもこちらのエゴがあってはいけませんので、そこは細心の配慮が必要ですね。