機関誌の鈴木鎮一先生の巻頭言に触発されて。

 

 機関誌211号の鈴木先生の巻頭言「おけいこの秘宝を」。ここで紹介された、いわゆる「枠持ち」のアイデアを、早速、教室で実践されたのが関東地区ヴァイオリン科指導者の荒木千香子先生です。生徒さんに試してみると、効果テキメンとのこと、興味津々です!

 まずは、掲載された巻頭言をお読みください。右の画像をクリックすると拡大します。
 
 それでは、荒木先生からの大変興味深い報告です。


 

たくさんの気づきを与えてくれる鈴木先生のアイデア

関東地区ヴァイオリン科指導者 荒木千香子
 

 先日配布された機関誌211号に、鈴木先生の『おけいこの秘宝を』という文章が掲載されていました。
 ざっくり要約すると・・・・
『鈴木先生はクライスラーの素晴らしい音を真似しようと、自分の音とレコードのクライスラーの音を聞き比べながら音の勉強をしていたのですが、ある時ひらめいて、弓の枠(毛箱/フロッグのこと)の右の角に親指を当ててふわっと柔らかく弓を持って音を出すと、豊かな太い響きがして驚いて、この音を普通の持ち方で再現する練習を、枠と普通を弾き比べながら続けている』
というお話でした。
 
 その日、教室でこの文章を読んですぐに、メンデルスゾーンの協奏曲の録音を翌週に控えた中学生がレッスンに来ました。
 音楽の全体はよく感じられているし、弾けていないところはないのですが、音の細部にまでまだ神経が行き届いておらず、音がきちんと鳴りきらないところが随所に見られます。

  「これは絶好のチャンス!」と2楽章を使って、鈴木先生の「枠持ち」をチャレンジしてみました。

 ここで言う「枠持ち」の右の角とは、枠の銀色の半月リングの、構えた時に手前側にくる角のことです。その尖っている角に親指を当てて、力を入れずにバランスでふわっと持ちます。
 
 さて?どうでしょう?
 「これはびっくり!」なんと、まずは本人が「わあ!」っと驚いて弾くのを止めるほど、ボリュームのあるふくよかな響きがしました。しかも弓の途中でフラフラしていた音色の密度がすごく上がって、雑音が減っています。
 今まで口を酸っぱくして「ふわっと仕上げないで、もっと細かいところや長い音の最後までしっかり出して!」と言ってきましたが、鈴木先生の魔法で、一瞬で音色を変えてしまいました。
 本人も大満足で、やる気に満ち溢れて帰っていきました。
 
 でも、中学生ならではの信じやすさや柔軟性のなせる技かもしれません。
 
 次に来た大学生にも試しました。
 来年2月にクラスの上級生で開催するメンデルスゾーンの弦楽八重奏曲のコンサートで、1stヴァイオリンを担当する生徒さんです。合わせの録音を聴いて音色に悩みを持ってレッスンにやってきたので、早速「枠持ち」開始!!
 今までどうしても雑音が混ざってしまっていた冒頭のスラーの速いパッセージが、すべての音が抜けることなくクリアに聴こえました!!
 「おおっ!!」とまた本人もびっくり。
 生徒さんは頭脳明晰な東京大学の理系学生なので「どうしてこんなふうに変わるのか?」といろいろと分析していました。
・枠を持ったことで腕の位置が若干上がるので、腕の運びが変化しているのではないか?
・いつもと違う持ち方をすることで、と馬毛の接点の部分に、より神経を配るのではないか?
・手と弦が近く感じられることで重さがダイレクトに伝わるのではないか?
などと、楽しいブレストタイムを過ごしました。
 
 その後、同じコンサートで3rdヴァイオリンを担当する大学生にも試して、やはり立ち所に効果が現れました。
 特にバッハのフーガの重音がものすごいボリュームになりました。
 「明らかに変わったことはわかるけど、どうしてこの音を出せるのかがまだわからない」
と、何度も試していました。
 「あーでもない、こーでもない」と意見を出し合って、あっという間に1時間、音の練習で終わってしまいました。
 
 実は小さい子にも少し試したのですが、4巻以上くらいの子には効果がありましたが、それ以下の子にはあまり効果がありませんでした。
 
 角に指を当てるのが痛いし、ちょっと難しいのですね。
 あと、この持ち方は音は鳴りますが、繊細な操作はできないので、難しい曲をこの持ち方のまま弾くことはできません。
 しかし、上級生3人が自分で驚いて弾くのをやめるくらい変化したのだから、これを普段の持ち方に応用して自分の物にできれば、そこからワンランク演奏がアップするでしょう。
 
 鈴木先生のアイデアは腕前に関係なく誰でも試せて、その上、たくさんの気づきを与えてくれるなあ!と感じた出来事でした。