今年の夏期学校では、おけいこ相談会を開催しました。
まずは、7月28日の夕方の内容を紹介しましょう。

 
 夏期学校の中で保護者との懇談会というのが元々の始まりでしたが、コロナ禍のために、ネット交流会がこのところ3回、広報委員会の保護者チームによって開催されてきました。その内容は以下の通りでした。
→第1回ネット交流会の様子  2022年8月20日
→第2回ネット交流会の様子  2022年12月25日
→第3回ネット交流会の様子  2023年6月4日
 
 今回は、夏期学校が4年ぶりの対面での開催となりましたので、「おけいこ相談会」というタイトルで、対面とオンラインでのハイブリッド開催が実現しました。回答者はネット交流会にも参加された以下の皆さんです。進行役は、夏期学校実行委員長の増澤治雄先生が担当されました。
・早野龍五会長
・末廣悦子先生(東海地区ヴァイオリン科指導者)
・石川洋子先生(九州地区ヴァイオリン科指導者)
・永田香代野先生(関東地区ピアノ科指導者)
・上杉亮子先生(中国・四国地区ピアノ科指導者)
 

 
早野 今回のご相談は、次の1件だけでしたが、これまでも何回も似たようなことで取り上げてきた普遍的な内容ですので、ここでもしっかりお答えしましょう。まずは、ご相談内容です。
 

質問・相談内容
 毎日のおうちレッスンについて質問です。
 現在、子どもは小学校3年生でヴァイオリンを習っており、指導曲集の2巻を終了し、3巻に入る所です。これまでのおうちレッスンは、朝、登校前に音階とトナリゼーションなど15分間、帰宅後に今の練習曲と1~2巻の曲で偶数番号の曲と奇数番号の曲を毎日交互に弾いてみて、できなかった所の部分練習、約45分間というやり方をしてきました。
 ただ、今どきの小学生は学校の宿題に加え、他の習い事や塾など昔に比べて多忙なため、毎日継続していくのが大変になっています。これから先 学年が上がっていくにつれて、どのような練習がいいのか、毎日継続していくにはどうしたらよいのか、教えていただきたいです。
 実際にOB、OGの先生方がどうしてこられたのか、また、最近の小・中学生の生徒さんたちはどうされているのかを知ることができましたら、うれしいかぎりです。

 
末廣 このお母様のお家では、おけいこがとてもいい具合に習慣化できていて、素晴らしいと思います。今後については、憧れの先輩を見つけてみてはいかがでしょう。教室のグループレッスンや、こうした夏期学校で見つけてもいいですし、素晴らしい録音や録画を聴いたり見たり、それに生のコンサートに足を運ぶことで、目標となる先輩=憧れの人を見つけるといいですね。習慣はついていらっしゃいますから、今後はああいう音、ああいう音楽という目標があるといいと思います。
 
増澤 やはり両立というのは、難しいのでしょうか。鈴木先生でしたら、どのように指導されるでしょうか。
 
末廣 鈴木先生でしたら、「やはり一つのことをやってください」と言われますね。それができると2つ目はそのレベルからスタートできるとお考えでした。これはとても大事な視点と思います。いろいろなことに同時に取り組んで、どれもが低いレベルになることよりも、一つのことをやり遂げること、これが大切に思いますね。私自身も指導曲集が9巻くらいになって、初めてピアノもやってみようかという気になりました。同じ音楽でもそうです。
 
早野 いただいた質問は過去のオンラインでやっていた時にも繰り返し出てきた普遍的な質問で、この質問があってとても良かったと思います。
 お子さんが「毎日やるのは当たり前だ」という習慣になっていることは、永く続けられる方は、これが入り口に必ずありますね。あれもこれもやって高いレベルまでいかない場合、その状況はよくないと私たちにも鈴木先生はご指導されました。一つでも極めるという経験を子どものうちに持つと、どの道に進もうとも、あれだけやればできたという、今どきの成功体験を得るわけです。それを子どものうちに経験していることが大切です。できれば才能教育過程を卒業するところまで、がんばっていただきたいですね。「ここまでやった」というところまで導くことをご両親が支えて、先生のご指導があって、進んでいただければと思います。そうした経験が一生の宝になりますので、ぜひともそこまで導いてあげてほしいですね。
 
増澤 お母様自身はどう対応されたらいいでしょうか。
 
石川 毎日のお稽古では、きっと復習をたくさんされていると思います。鈴木先生は、なぜ復習をするかというと、「能力ができるまで繰り返してみると、やさしく感じられるようになる」とおっしゃいました。復習は、やらなねばならないのではなく、やるとどうなるか考えてみることが大切です。私はよく「復習は未来の予習なんだよ」と言って、目の前のことができるようになると、次の曲のここができ、さらに次の曲のここができると言うふうに捉えてもらうようにしています。
 
増澤 ピアノのおけいこの場合では、いかがでしょうか。
 
永田 ピアノ科も復習は大事ですから、徹底していますね。なぜかと言うと同じような形が必ずまた出てくるんです。だから繰り返しのお稽古が必要です。相談者様の場合、習慣化ができていますので、学校に行く前の15分が、とっても素晴らしいと思います。今後、高学年になり、中学、高校になってもこの時間を大切にされるといいですね。やはり私も一つのことを極めていくことが大切だと思います。
 
上杉 毎日のお稽古を継続してゆかられること、本当に大変なことだと思いますが、やはり大切なことですね。できれば毎日の習慣を楽しく続けていかれるといいなと思います。お父様、お母様からは褒めてあげてほしいですね。そのことが好きになることにつながってゆきます。そして好きになることが、継続していくきっかけにもなります。
 
増澤 相談者様のお子様の性別は分かりませんが、私のことで言えば、親に言われて仕方なくお稽古するのが、小学3年生くらいのいつもの姿でした(笑)。
 
早野 私もそうでしたよ(笑)。
 
末廣 親御さんが疑問を持つとお子さんも何かしら感じるものです。ですので、親御さんは自信を持って、今やっている姿は正しいことで、いいことなんだと信念を持って続けていただければ、お子さんも自然とついてくると思います。
 
増澤 そうですね、今後もこの相談者様からのご相談があるかもしれませんし、同様のご相談が寄せられるかもしれませんが、「お稽古を楽しく」は、とても大切に思いました。
 
早野 そもそもお稽古をして楽しいかということなんですが、思い返してみると小学1年の頃、本当に楽しかったかと考えるとそうでもなかったと思います。でも夏期学校に参加したり、人前で弾くと言う目標があることがとても大事なんです。「あの日は本番なんだ」とか「この日は、ちゃんと聴いてもらおう」とお稽古をする。卒業録音もそうです。人生、本番が大切なんです。これなしに毎日ただただ練習するのは苦痛です。プロの方のコンサートと同じで、お子さんも「この日、ちゃんと弾こうね」と言う目標があるといいですね。何かお稽古の時に目標を作られるといいと思います。僕も鈴木先生のお家で、ホームコンサートのようなことをたくさん経験しました。それはもっとお稽古を続ける非常に重要なモチベーションになりました。それが何分練習することを目的にすると、何のために練習しているのかになり、つまらなくなります。本番という目標を常に持ち続けると、楽しいし、お稽古をします。それを続けていると、どこかでこの曲をやりたいからお稽古をする、というふうになってきます。そう思う時がきっとくるんです。その時まではご家族のサポートをお願いできればと思います。どこまでお子さんが自分から楽しくお稽古ができるかという段階までなれるといいですね。
 ちょっと個人的な話をします。先週まで、僕は日本で初めて行なわれた『国際物理オリンピック』の出題委員長をしていました(→国際物理オリンピック)。80ヵ国以上から一国、5人の高校生たちが東京大学の受験の物理よりも遥かに難しい問題を10時間かけて解くというもので、非常に過酷なものです。その子たちはどうしてそのように育ったのかと考えると、勉強する楽しさがわかるまで、繰り返し本を読むとか、家の中で習慣になることがきっとあったんだと思います。でもそれだけではダメなはずで、「自分でこれをやりたい」とか「自分は、これが面白い」とか、音楽でもスポーツでも物理でもみんな同じで、どこかのレベルまではそうした環境をお家で作ったのだろうと思います。今回、付き合った400人ほどの高校生はどうしてこんなに優れて育ったのだろうと思いましたが、きっと最初の頃には、そういうご家庭があったんだろうと思います。どこかで独り立ちして、自分で楽しみを見つけてきたのだろうと思います。こうすれば自分が育つことが自分でわかる、ということです。スズキでも才能教育課程まで行くにはどうしたらいいか、お子さんが知ることができれば、大きな力になります。そうした学ぶ力は、他のことを学ぶ時にも役立つと思います。
 
増澤 どうもありがとうございました。本日は一方通行ではありましたが、今後は双方向でもできるようになればと思います。