青春時代の部活みたいに、楽しさを満喫

宇都宮市・大人のヴァイオリン・アンサンブルの皆さん(スズキ・メソード宇都宮支部)

1年間でゴセックまで、
さらにアンサンブル活動も展開中

 
 

 スズキ・メソード宇都宮支部では、幼稚園児を持つ母親を対象に、1年間限定の大人のヴァイオリン教室を開催。1年かけて、キラキラ星変奏曲からゴセックの「ガヴォット」までが弾けることを目標にしています。宇都宮支部のヴァイオリン科の先生たち6名が交代でレッスンを担当し、支部の行事として組み込まれているため、参加費は無料。20年以上も続いているプログラムです。子どもたちにとっても、母親と一緒にレッスンを開始することになり、お互いの苦労するところなども手に取るようにわかるそうです。
 
 さらに、意欲的にもっとヴァイオリンを演奏したいという「大人のヴァイオリン・アンサンブル」を支部として始めて、すでに10年が経ちました。今回、中心となる川沼文夫先生がご担当される宇都宮センター教室にお邪魔し、実際のレッスンの模様を取材させていただきました。
 

用意された10曲あまりの日本歌曲を練習。公民館などでの演奏で、絶対に大きな拍手をもらえそうなほど、充実した音がしていました

 
 「大人のヴァイオリン・アンサンブル」は10名ほどの母親が登録され、宇都宮センター教室では、毎月1回、水曜日の午前中に行なわれています。この日は、宇都宮支部として子どもたちが出演する「孝子桜まつりコンサート」(4月2日、宇都宮市立城山西小学校)に、大人も参加しようと、「花」「早春賦」「ふるさと」を、そして、今後、病院や公民館などで大人のアンサンブルを披露するために、「夕焼け小焼け」「赤とんぼ」「上を向いて歩こう」「浜辺の歌」「もみじ」「荒城の月」など、日本の歌曲を次々に練習していきました。
 
 どれも短い曲ですが、しっかりとした演奏で、とてもびっくりした次第です。ボウイングもきれいですし、音程もそろっています。曲によっては、第3ポジションや第5ポジション、時に第2ポジションや第4ポジションも出てきますが、みなさん、とても堂々と弾かれていました。その秘密は、指導曲集第1巻を使った基礎練習がきちんとできていることと同時に、アンサンブルの楽譜とともに、ピアノ伴奏が収録された川沼先生自主制作のCDがあらかじめ配布されていたことにあるようです。スズキ・メソードの大きな特徴の一つ、「耳から覚える」練習法が、ここでも実践されていました。
 
 しかし、最後に追加された東日本大震災の応援歌「花は咲く」は、その場で譜面を配布し、「これも良い曲ですから、いきなり弾いてみましょう」という川沼先生の指揮で始めてみると…? 心配は杞憂です。これまた立派な演奏でした。アンサンブルに必要な読譜力もしっかりついていることがわかります。しかも、みなさんが楽しんで演奏されていることも伝わってきました。
 
 川沼先生は、曲にまつわる思い出話なども紹介されていました。「学生時代のことですが、宇都宮市内に『波奈』という名前のレストランがあって、先輩に誘われて、弦楽四重奏のアルバイトで生演奏したことがありましてね。その時に、この『花』を演奏したんです。その時はまだ若かったし、初めてで緊張しましたけれど、思い出深い曲なんですよ」。そうしたお話の後の演奏は、さらに良い響きになるから不思議です。
 

大人対象にもきちんとした基礎を教えていることが、アンサンブルでもいい結果を出すようです


 また、ポジション移動についても、曲の中で簡単なレッスンが行なわれていました。第1ポジションから第3ポジションを経て、第5ポジションにつながる音階練習です。それぞれの弦で行ないながら、「第5ポジションの時の左肘が内側に入る感じと、親指の位置を確認してくださいね」とポイントを明確にされていました。大人の皆さんは、よく知られた日本歌曲を演奏しながら、ヴァイオリンのスキルアップも同時に行なっていたことになります。
 
 「ふるさと」や「浜辺の歌」では、第2ヴァイオリンの練習もありました。それで、合奏をしてみると、きちんとアンサンブルになっています! 演奏する皆さんの表情も、楽しさに溢れていました。
 
 コンサートに向けてのこうした練習を通して、川沼先生は「お子さんとバッハのドッペルを一緒に合奏できるまで持っていきたいですね」と目標を設定。実際、参加されていた鶴川さんからも同様の目標を伺いました。親子でのドッペル! 本当に素晴らしいことですね。

川上さんのケースには、宮澤賢治の「アメニモマケズ」の直筆コピーが。気持ちが伝わってきました!

前列左から鹿野さん、川沼文夫先生、川上さん、後列左から青木さん、小和田さん、鶴川さん、北村さん

 
 参加の皆さんにお話を伺いました。
 
■小和田麗子さん
 高校を卒業する頃までは、ヴァイオリンを習っていました。今回、上の子がスズキで習うようになって、2年前から私も参加するようになりました。久しぶりのヴァイオリンですが、宇都宮支部のリトルコンサートでマクリーンの「チャルダッシュ」を弾きました。モンティの「チャルダッシュ」に似ていて、ヴァイオリン3重奏ですが、とても楽しめました。
 
■鶴川美沙さん
 子どもと一緒に大人もやりますよ、と聞いて、びっくりしました。初は、子どもは箱ヴァイオリンで、私の方が楽器を持って練習していましたし、進み方も早かったので、子どもにはとてもいい刺激になったと思います。「大人のアンサンブル」では、CDを楽譜と一緒に事前にくださるので、とても助かっています。
 
■鹿野聖子さん
 小さい頃、川沼先生に習っていました。自分がもう一度習いたいと思って、息子を入会させた次第です。川沼先生の印象が変わっていないことにびっくりしました。我が家ではヴァイオリンそのものが「環境」になっていて、当時の支部大会やコンサートの曲を聴くと懐かしいし、またやりたくなって弾いてみると、弾けてしまいます。頭の中に音が残っているんですね。今では、内にこもっているものを発散する糧になっていて、人生の張りにも。時間を捻出するのが大変ですが、楽しいです。
 
■北村恭子さん
 郡山市で二人目のお産をしたのが、東日本大震災の翌日でした。それで、家族でいろいろと考えた末に引っ越し先として選んだのが宇都宮市で、当時、習っていた田中洋子先生から紹介していただいたのが、川沼先生でした。私自身はまったく弾けませんでしたが、子どもの導き方やヴァイオリンのお稽古まで、本当にいろいろとお世話になっています。「こっちにもおいでよ」と誘われて、2015年から「大人のアンサンブル」にも参加するようになりました。
 
■川上美香さん
 父が川沼文夫先生、兄が川沼顕先生ですので、小さい頃からヴァイオリンの音の中で育ちました。結婚して、子どもが生まれて、その子どもと一緒にヴァイオリンを弾けるというのは、本当に楽しいことです。子どもの方がどんどん上手くなっていきますが、それもまた一緒になって楽しんでいます。それに昔の仲間たちとも再会して、一緒にできることもいいことです。
 
■青木友紀子さん
 中学のオーケストラ部で別の楽器を担当し、「ヴァイオリンが弾きたい!」と思うこと約20年。今は、娘と一緒に毎日ヴァイオリンを弾けることがとても幸せです。楽器の使い方もお手入れも分からず入会した時に、ゼロから1巻の最後まで教えていただける「大人のヴァイオリン教室」はとてもありがたかったです。何歳になっても好きなことを始められる、音楽って楽しい、そんなことが子どもに伝われば嬉しいですね。  
 

宇都宮支部主催の第120回リトルコンサートに出演した大人のアンサンブル(2013.2.3)


 

「これから楽器を始める人たちへ」
大人のヴァイオリン・アンサンブルの
皆さんからのメッセージ

 
 「思い立ったら、吉日」です。まず一歩を始める度胸ですね。それが踏めれば、後は流れに乗れます。きっかけがないと難しいかもしれませんが、知り合いがいるといいですよね。あるいはママ友と一緒に始めてみるとか。興味があったら、始めてみることです。そこから世界が大きく広がります。
 
 それに、自分のやりたい、始めたいという気持ちと、同じような志を持っている人とつながるチャンスは、決して逃さないことです。レッスンの後のおしゃべりなども楽しさにつながるので、おすすめです。
 
 親と子が年の差を越えて、同じ楽器をやっているというのは、とても家の中のコミュニケーションが豊かになります。母親たちがヴァイオリンを演奏する、しかもアンサンブルもすることを、子どもたちは内心嬉しがっています。子どもたちの方がどんどん上手くなりますが、母親が子どもに「これ、どうやって弾くの?」と聞くと、ちょっとばかり嫌がりながらも、実は得意げに教えてくれます。きっと、子どもたちにとっても人間的な幅とか、感性が磨かれていっているのだと思いますね。
 

第129回リトルコンサートで子どもたちと一緒に記念撮影(2016.2.14)