装いも新たに、鈴木鎮一先生選の一茶俳句100句が、英訳されました!

 

ほおずき書籍(2,000円+税)

 ヴァイオリン科出身で、現在は本会顧問でもある医学博士の宮坂勝之先生が、鈴木先生が選ばれた小林一茶の俳句100句をもとに、奥様の宮坂シェリーさんによる英訳、信州の自然、いのち、平和をテーマにした独自の画風で知られる柳沢京子さんによる、きりえで構成された「英訳一茶俳句100句集」(ほおずき書籍)を出版されました。アマゾンでは、Kindle版の購入も可能です。

 
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  7月4日まで開催中の「きりえ原画展」(信濃町・一茶記念館)にお邪魔した時の記事は、こちらです。
 
 
 

俳句の背景〜宮坂勝之
俳句の英語化 
 俳句のような、5-7-5の音節(シラブル)を持った3行詩は英語圏では見かけません。また、日本語と英語は、字句の並び方や文法だけでなく音調(音節、拍)も大きく異なる言語です。このため、元となる俳句の日本語の音節数、段の順番、リズム感などの語感と日本語の美しさを失わないまま、作者の意図を英語で反映させる工夫が必要になります。
 当初、古典的な俳句の雰囲気を伝えるために、5-7-5の音節を重視した英語化を行いました。しかし、自らの思いを俳句として詠むのではなく、一茶の俳句を英語化する意図からすると、英語としての美しさや口ずさみやすさ、忠実な意味の反映という目的では、不可能ではないにしても、英語の音節での5-7-5は、選択できる語彙が大幅に制限され、無理のある表現方法だと感じるようになりました。
 例えば、(今回の範囲とは違いますが~編集部註)俳句 # 93は素晴らしい俳句です。
「露の世は、露の世ながら、さりながら」
 この世は、露のようにはかなく消え去るものだと知りつつも、まだ幼い我が子を病で失った歎きが、「さりながら」という五文字で見事に表現されています。悲しみを表す言葉は何一つないものの、亡き子を思う親の切なさがしみじみと伝わります。
 この句を、当初は5-7-5を踏み、以下のように英語化してみました。
 In this world of dew,
 here we are, like dew, and then? but still,
 but still, why?
 しかし本書では、5-7-5こそ踏んでいませんが、英語としてより詩的で美しい響きを重視して下記の翻訳としました。ただし形式は重視し、3行の順序は生かしました。
 “The world of dew,
 Is the world of dew,
 And yet, and yet ....”
 俳句の解釈には、詠み手の感性や文化的背景、時代背景が影響しますが、それは使う語彙や表現形式など、英語化自体にも大きく影響します。当然ですが、古典である一茶の俳句の英語化と、新たに英語で創作するHaikuとでも異なります。白紙に自由に俳句を詠む場合には、より自然に5-7-5形式を踏み、かつ美しい響きを持ったHaikuとする語彙の選択肢は広がります。
 また、俳句に用いられる季語や季節感、固有名詞などが与える印象は、旧暦を用いた一茶の時代と現代とでは当然異なりますが、時代によっても、詠み手の土地柄、国柄、文化によっても異なります。お正月を初春として祝う日本とクリスマスの持つ雰囲気や、破れた障子の穴と壊れたガラス窓のように、言葉の翻訳だけでは雰囲気や意味が通じない場合もあります。

 
 今月は、71句〜80句を紹介させていただきます。
 
 また、スズキ・メソード公式サイトの会員ページからは、この100句の日本語を立川志の輔師匠、そして英語をパックンにお願いした音声データをリスニングすることもできます。鈴木先生が選ばれた一茶の俳句への特別な思いが込められていますので、ぜひお楽しみください。
 
→スズキ・メソード公式サイト会員ページ
 
 


 下のそれぞれの俳句をクリックすると、中身をご覧いただけます。

著者・演者の紹介
 
宮坂勝之
長野県生まれ。小児科医、麻酔科医。スズキ・メソード初期の生徒で、1947年(3歳)からヴァイオリン、一茶の俳句を習う。カナダ、アメリカ留学後、国立成育医療センター、長野県立こども病院、聖路加国際病院などに勤務。在宅医療児支援、日野原いのちと平和の森活動などに参加。和洋女子大学長補佐。スズキ・メソード顧問。聖路加国際大学名誉教授。
 
宮坂シェリー
米国ニューヨーク生まれ。ペンシルバニア大学で心理学専攻。トロント大学日本語学科を経て、文部省奨学金にて東京学芸大学へ留学。1977年より日本在住。スズキ・メソードの生徒の母親として息子たちと俳句暗唱に参加。日本語能力試験N1、華道池坊華監。外国人知的障害児教育、医学英語論文編集などに関わる。
 
柳沢京子
長野県生まれ。信州大学教育学部美術科卒業。信州の自然、いのち、平和をテーマにした独自の切り絵の作風が注目され、国内、欧米各地で個展開催。公共施設での展示、長野冬季五輪(1998年)企画に参画。1977年「柳沢京子一茶かるた」(奥野かるた店)、2017年「一茶365+1きりえ」(ほおずき書籍)など一茶関連作品出版。
 
立川志の輔
富山県生まれの落語家。明治大学卒業。サラリーマンを経て立川談志に入門。1990年真打昇進。古典から新作まで幅広い芸域で知られる。北海道から沖縄まで全国各地のほか、定期的に海外公演も行なっている。2015年紫綬褒章受章。1995年より現在まで続くNHKの長寿番組「ガッテン!」の司会で知られる。2018年より富山国際大学客員教授。
 
パトリック・ハーラン(パックン)
アメリカ・コロラド州出身のお笑い芸人・コメンテーター。ハーバード大学卒業。1993年来日。英会話学校講師などを経てマックンと組んだ漫才コンビ「パックンマックン」で広く知られる。幅広い領域で活躍するタレントである。立川談志(志の輔の師匠)とも共演。東京工業大学リベラルアーツセンター非常勤講師。
 
日本語解説ナレーション/宮坂久美子 
長野県生まれ。信州大学大学院修士課程終了。元JICA海外協力隊員。
英語解説ナレーション/宮坂シェリー